『静かなる太陽』短評
昨日のテキストに引き続き、霧島兵庫さんの歴史小説のレビューになります。
昨日レビューした『フラウの戦争論』の翌月に刊行されたのがこの作品です。題材となっているのは義和団事件。1900年に起きた、清朝末期の反キリスト教そして排外主義の民衆蜂起です。
主人公の柴五郎は会津出身であり、故郷・会津が明治新政府に滅ぼされたことに対し、鬱屈した思いを抱えている軍人です。彼の中では義和団の蜂起と故郷の会津の姿が重なり、対峙している敵軍に対し愛憎相反する思いを抱きます。しかし、乱が進行するにつれ、彼は歴史のうねりの中に否応なく巻き込まれ・・・というのが物語の導入から中ほどまでのあらましです。
柴五郎は会津が明治政府に対して抱く恩讐を越え、日本政府中枢だけでなく欧米列強ともわたり合い、やがて日本主導で乱を鎮める体制を構築していきます。国々の思惑が入り乱れる混迷の中、曲者揃いの各国軍人たちをまとめていく柴五郎の度胸の実に清々しいこと。彼の奮闘が日本という国家の信頼へとつながり、後の日英同盟への道筋となります。大きな歴史のうねりと快男児が揃い踏みした骨太の歴史小説です。
一方で、柴五郎の悩みや苦しみも包み隠さず描くことで、主人公が過剰に賛美されることなく、等身大で人間味あふれる、好感の持てる人物となっています。多彩なピースが高い完成度で組み合わさった傑作です。まだ2020年は半分も過ぎていませんが、極私的には今年の歴史小説のベスト候補の1つではないかと思います。