otomeguの定点観測所(再開)

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第11回翻訳ミステリー大賞決定と軽く雑感

 昨日からツイッターなど一部界隈で騒ぎになっていますが、今年度の翻訳ミステリー大賞が決定したそうです。

 

honyakumystery.jp

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 開票結果は以下の通り。大賞は『11月に去りし者』でした。

『拳銃使いの娘』5票
『ザ・ボーダー』8票
『11月に去りし者』13票
『パリ警視庁迷宮捜査班』8票
『メインテーマは殺人』6票 

11月に去りし者 (ハーパーBOOKS)

11月に去りし者 (ハーパーBOOKS)

 

  極私的にはうーん・・・という感じです。秀作のクライムロードノベルでありノワール、一方で哀愁と抒情を備えた大人の心情を渋く追ってくれる作品ではありますが。一方で、プロットやキャラクター造型が類型的に過ぎるきらいがあり、またラストも極私的に感情移入しにくかったこともあって、2019年度の極私的回顧ではベスト5から外しました。

2019極私的回顧その9 本格ミステリ(海外) - otomeguの定点観測所(再開)

2019極私的回顧その11 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開)

 このラインナップだったら、テーマ性の強さを鑑みて、『ザ・ボーダー』に授賞してほしかった気がしますねー。念のため以前のレビューを再掲します。 

ザ・ボーダー 上 (ハーパーBOOKS)

ザ・ボーダー 上 (ハーパーBOOKS)

 
ザ・ボーダー 下 (ハーパーBOOKS)
 

『犬の力』『ザ・カルテル』と続いた麻薬戦争三部作の完結編です。過去二作のキャラクターも続々登場し、クライマックスは三部作最高の盛り上がりと完成度になりました。政治が担うべき社会的責任を問うた作品でもあり、独裁者然として振る舞う現アメリカ大統領への風刺にもなっています。ウィンズロウの健全なシニシズムこそ、今のアメリカに必要だと思うのですが。

  ハーパーBOOKSの1位・2位ということで、同社のツイッターでは狂喜乱舞が見られました。

 まあ、受賞結果や選考の過程に対して自分なりのツッコミを入れるのも、文学賞の楽しみ方の1つですし、星雲賞やSOG賞など、選考の過程がいろいろ開かれているのはファンにとっては楽しいものです。