『あの本は読まれているか』短評
今回のテキストは先月、東京創元社から発売された『あの本は読まれているか』のレビューです。
すでに各所で話題になっている作品ですが、期待に違わぬ良作のミステリであり歴史小説であり恋愛小説でした。東西冷戦の只中にCIAによって仕掛けられた〈ドクトル・ジバゴ作戦〉が題材。激しい諜報戦の描写に作戦に関わった多数の男女の生き様と恋愛模様をジェットコースターのように展開していく、熱いエスピオナージュです。冷戦のスパイものといえば、ほとんどが男性視点で語られてきて女性は男性の補佐や色仕掛け要員であることが多かった気がしますが、この作品のメインは東西両陣営の女性の多視点です。男性優位の職場で冷遇されながらも彼女たちが抱いていた情熱と野心、そして男性を怜悧に見据える研ぎ澄まされたユーモア。これまで歴史の影に隠れてきましたが、彼女たちもまた主役級の働きをしていたのだということを、作者は膨大な歴史資料の読み込みを裏付けにして見事に描き切りました。
極私的には年末のベストミステリのランキングに入れたい作品。ミステリファンもフェミニストも必読の作品でしょう。