大崎梢『さよなら願いごと』短評
今回のレビューは大崎梢『さよなら願いごと』です。今月発売になったジュヴナイル・ミステリです。
大崎梢のミステリといえば、書店や出版社などの「お仕事」シリーズ、あるいは児童向けのポップなミステリというイメージです。私も書店で働いていた経験があるので、〈成風堂書店事件メモ〉シリーズは肌に合うミステリの1つです。
『さよなら願いごと』はジュヴナイル・ミステリとして評価しても、十分に完成度の高い作品です。ポップでやわらかい表紙に比べて事件の内容はなかなかハード。3人の少女が殺人事件を解して繋がりそして事件解決のために動き回る様子、各所の仕掛け及びガジェット、謎解きから解決に至るプロセスなどはいつもの大崎梢らしく手堅くまとめられています。
また、文体やキャラクター描写について評するなら、この作品には児童文学としての読みどころも十分あります。殺人という出来事を介して、少女たちの心情の移ろい、友情や連帯などがあたたかく瑞々しく描かれていて、読後感は清々しいものです。
ミステリや児童文学のファンのみならず、幅広い層に勧められる佳作ミステリだと思います。