『キャプテン・フューチャー最初の事件』短評
先月末に東京創元社から刊行された『キャプテン・フューチャー最初の事件』。アレン・スティールによる名作スペースオペラのリライト・リブートであり、〈新キャプテン・フューチャー〉シリーズの第1弾にあたる作品です。
意外なことに、アレン・スティールはこれが初の翻訳長編です。あとがきで中村融も触れていましたが、〈Near-Space〉〈Coyote〉といった宇宙小説のシリーズがあり、『Arkwright』という傑作長編もある、現代アメリカSFを代表する作家の1人ですので、もっと紹介が進むべき作家なのですが。
日本で〈キャプテン・フューチャー〉といえば野田昌宏訳の名調子のイメージが強いですね。平易な日本語のリーダビリティ、(レトロな)奇想天外さ、そしてフューチャーメンたちの八面六臂の活躍なんてところが魅力として挙げられます。ただし、当時の小説は設定の背景やら(レトロな)科学的からくりやらを長々と説明するので、ページ数が増えて分厚くなるのが魅力でもあり難点でもありますが。
リブートとなる〈新キャプテン・フューチャー〉は、カーティス・ニュートンの両親が殺されたいきさつやフューチャーメン結成秘話などが読め、〈キャプテン・フューチャー〉の宇宙史を埋める重要なピースになっています。科学設定や人物描写などが再構築されたのは、執筆された年代が異なるので仕方のないところです。むしろ、ハミルトンの文体に比べて人物の心情描写が増えており、若きカーティスの内面の掘り下げや、フューチャーメンたちが信頼関係を築いていく過程を見る楽しみが増えたと思えばいいでしょう。〈キャプテン・フューチャー〉の続編シリーズとして十分な水準の作品です。
・・・表面的なレビューはこれくらいで。
極私的には、日本における旧〈キャプテン・フューチャー〉礼賛には違和感があります。骨董品を普遍的なクラシックとして奉るのは現代SFに対する正しい態度ではありません。骨董はあくまで骨董として味わうから価値があるもの。あくまで懐古は懐古であり、現代の小説とは評価軸が異なります。ミステリにおけるヴァン・ダイン礼賛(??)などと同じ質の現象です。amazonレビューなどで〈新キャプテン・フューチャー〉を旧作と比較していまいちだと評するレビューもありましたが、むしろ逆でしょう。アレン・スティールが骨董品を再構成して現代の宇宙小説として鮮やかに再生させたと解するべきです。
続編『Captain Future in Love』『Captain Future: The Guns of Pluto』は4部作の第1部と2部にあたるノヴェラです。今のところ、若きカーティス・ニュートンがハードボイルドのヒーローよろしく活躍を試みるもクォルンにはめられて悪戦苦闘している最中です。ここからいかに逆転に持っていくのか、ノリノリのアレン・スティールの筆に期待しましょう。