otomeguの定点観測所(再開)

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『かえり花 お江戸甘味処 谷中はつねや』短評

 今回のテキストは今月発売された時代小説のレビューになります。

  

  倉阪鬼一郎の時代小説は食べ物をテーマとした人情物が多く、柔らかな文体と作風であり、ミステリやホラーの作風とは一線を画しています。私は時代小説は日々の仕事や雑事などのストレスを発散させるために読むことが多いので、心地よい人情物などを特に好んで摂取するのですが、なかなか美味しかったです。否、面白かったです。この作品もまた人情物の佳作と言っていいでしょう。

 主人公の周囲に溢れるあたたかさと優しさ、一つ一つの手仕事に込められた強い思い、そして和菓子に対する矜持。若い夫婦が奮闘して店を切り盛りしながら仕事を通じて絆を深めて成長していく姿には清々しい読後感があります。作中に出てくるお菓子もなかなかおいしそうで、読んでいるとお茶と和菓子がほしくなります。肩の力を抜いて甘いものでもいただきながら読みましょう。