今回のレビューは先月東京創元社から出たミステリになります。
法廷ミステリとしても一定の完成度を持っており、お勧めできる作品でしょう。しかし、〈デフ・ヴォイス〉のシリーズを読んでいて感じるのは、ミステリとしての仕掛けの高度さなどよりも、家族や子供、そして弱者に向けるまなざしの本質と情愛ですね。作中に問題提起がいくつもあり、子供や母親の真摯な本質を突いた言葉に胸が締め付けられるような思いになります。緘黙症の少年にとっては手話でさえ苦痛になるというのは驚き。手話通訳士がろう者と聞こえる人間との間で抱える葛藤。自分の耳が聞こえることがこれほどありがたく素晴らしいことなのかということを実感します。ハッピーエンドとならずに「しゃべれない・聞こえない」という苦を抱えたまま生きていかねばならないという現実を突きつける読後感は苦いものがありますが、それもまた作者のメッセージということでしょう。