『幻想と怪奇の英文学Ⅳ』発売記念コラボトーク【NLQオンラインセッション #05】 「英文学研究って何?」⇒視聴したので断片的な感想というよりはフォロー??
昨夜、『ナイトランド・クォータリー』のZoomによるトークセッションが行われ、これまでは仕事の都合でなかなか厳しかったのですが、ようやく視聴することができました。
公式には20:00~21:00の枠だったのですが、日付が変わるまでみんなでワイワイやるという非常に楽しい回でした。話があちこちに飛んで主題がまとめにくいことと、英文学については私は門外漢なのでコメントしにくい論点などもあります。また、仕事帰りで頭が回っておらずメモなどもちゃんと取っていなかったという言い訳もさせていただきつつ、以下、セッションで出た話題について本旨から外れていますが断片的にテキスト化します。ただし、私の水準ではまともにコメントできないものも多いうえ、チャットで出た話題を拾っているだけという場合もあるのでご容赦ください。
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岡和田晃_新刊「NLQ21 空の幻想、蒼の都」、『現代北海道文学論』 (@orionaveugle) | Twitter
岩田恵@アトリエサード (@mahamayuri) | Twitter
大和田 始 「パステル都市ゲームブック」たちまち断念中 (@fifi_ma_fifi) | Twitter
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下楠昌哉 (@masayashimox) | Twitter
桐山 恵子(文学部英文学科) | 同志社大学 研究者データベース
小林広直(Hironao KOBAYASHI) (@memento228) | Twitter
Y. MINAMITANI (@YMINAMITANI) | Twitter
・・・なんぼでも貼れますが、とりあえずこんなもので。
まず、『幻想と怪奇の英文学』。私も過去3巻全て読んでおりますが、やっていることはつまり異種格闘技戦です。わけが分からない表現かもしれませんが、現代の日本文学やアメリカ文学、英語圏文学など他分野の滲入、テーマの多彩な広がりなど、サーチすべき領域がさらに広がり、かつ文学研究自体が冷遇されて英文学がさらに縮小していく中、一般の読者に公開・啓蒙すべく学者たちがいろいろなレスラーを引っ張り込んでバトルロイヤルを行っているという印象です。専門家や知見の豊富な読者相手なら学術的な言語を組み合わせることでコミュニケーションできますが、私のような門外漢で学術知に劣り正式な知的訓練を受けていない素人に、いかに売り込みをかけつつ自身の専門を開陳するか。過去3巻とも学者たちの素敵な苦闘が垣間見える本に仕上がっています。作品の魅力を売り込んでやるという視座はどの論者も徹底していますので、読者としては素直に技にはめられて一本取られるのが吉でしょう。今回のセッションでも4巻で披露されるであろうネタが飛び交っていましたが、まだ発売前でオフレコにしなきゃいけないものもいろいろありそうなので、とりあえず読んでみてのお楽しみとしておきます。SF・ファンタジー・怪奇幻想の読み手のみならず、本来的には幅広い層に読まれてほしいシリーズですが。
では、以下、セッションの本旨とかなりずれるものばかりですが、私が拾える話題というかフォローできる事柄について断片的に触れていきます。
【日本人で翻訳ではなく直接英語でSF・ファンタジーを発表している作家】
確か、チャットで出ていた話題ですが、トークの方ではそのまま日本のSF・ファンタジーの翻訳紹介の話になってしまったので、ちゃんと紹介されていなかったですね。セッションに参加していた方はほとんどがご存知かと思いますが、翻訳ではなく英語で直接SF・ファンタジーを発表していて日本語を母語とし日本国内の雑誌であまり触れられない作家、私の知る限り1人いらっしゃいます。Yukimi Ogawaさんですね。
Yukimi Ogawa (@fluoritewitch) | Twitter
日本語では読めない日本人作家? オガワユキミさんインタビュー|Rikka Zine|note
昨年出たインタビュー記事ですし、《SFマガジン》で大森望さんが紹介していたので、SF・ファンタジーファンならご存知の向きも多いと思いますが。amazonのKindleで拾えるのは現在これくらいです。
Clarkesworld Magazine Issue 162 (English Edition)
- 作者:Clarke, Neil,Kunsken, Derek,Spires, D.A.,Clark, M. L.,Ogawa, Yukimi,Van Sant, Cameron,Buckley, Mike
- 発売日: 2020/04/01
- メディア: Kindle版
The Dark Issue 4 (English Edition)
- 作者:Gilbow, S. L.,Ogawa, Yukimi,Moreno-Garcia, Silvia,Theodoridou, Natalia
- 発売日: 2014/04/30
- メディア: Kindle版
Clarkesworld Magazine Issue 151 (English Edition)
- 作者:Clarke, Neil,Theodoridou, Natalia,Ogawa, Yukimi,Schwitzgebel, Eric,Jeong, Soyeon,Chand, Priya,Yu, Nian,Pang, Y.M.,Wolven, Nick
- 発売日: 2019/05/02
- メディア: Kindle版
Clarkesworld Magazine Issue 123 (English Edition)
- 作者:Clarke, Neil,Clark, Maggie,Yuan, Wang,Arnason, Eleanor,Ogawa, Yukimi,Lindell, Yosef,Moles, David,Kress, Nancy
- 発売日: 2017/02/15
- メディア: Kindle版
最初の短編はファンタジーと幻想小説の中間くらいという感触でしたが、最近はSFチックなものに変わってきている感じです。日本の風土や妖怪などを意識させる表象が多いのは、そういうオーダーを受けているというのもあるのでしょう。母語が英語でないためやや硬質な文体ですが、私にとっては読みやすくとっつきやすい英語です。ジャンルSFの枠外に出自を有する作家さんですが、それがかえってオリジナリティを担保している感じで、全体に中短編の水準は高いと思います。日本人が英語圏文学に進出して、かつ一定の評価を得ている例というのはなかなかないと思うので、是非頑張ってほしいですし、彼女の中短編を日本語に訳して逆輸入(??)するというのも面白いと思いますが、いかがでしょう。
【『フランス幻想文学の総合研究』について】
確か、トークの中で下楠さんから言及があり、私がチャットで書名を挙げたものだと思います。1989年に国書刊行会から刊行され、科研費でまかなわれたという、仏文学者による幻想文学の論集、タイトルそのままですね。書影を挙げておきます。amazonの古本には状態を問わなければごろごろあるので、すぐ買えると思います。
全体には一般に膾炙するものではなくあくまで学術的な紀要論文の集合という印象です。昔からの仏文の先生の場合、フランス文学の中に幻想が予め包摂されているため、自身の専門を少し外挿することで幻想文学的な仕事ができたという印象がありますね。話していても怪奇幻想好きな方が多かったですし。例えば、篠田知和基さんはネルヴァルだし、田中義広さんはエゾテリズムおよび幻想文学の専門でかの「エディシオン・アルシーヴ」の創設メンバーですし、山中哲夫さんはマラルメと精神分析がフィールドでしたし。
【英語教育および言語教育について】
岡和田さん含め、若手で熱心な先生が多いということで、教育についても熱く語られていました。一般に英語教育ないし言語教育というと表面的なテキスト読解・意味の羅列にとどまり、テキストの余白や意味の内奥にせまることがなくなっている、というのがやはり皆さんの共通見解で、英語及び言語を道具としてのみ扱い、そのように教育しようとする現状に危機意識を抱いているようです。ビジネス英語およびビジネスのテキストしか読んでいない人間は実は英語の読解力が不足しているということ、英語「を」学ぶのではなく英語「で」学ぶのが大切だということ。人文科学では自明であることのはずなんですが、教養知が細っているのを皆さん感じているんでしょうね。
ここで私の仕事について書くと身の危険があるのですが、現場で子供たちに国語・日本語表現を教えている身からすると、英語教育や外国語教育以前の問題として母語である日本語を深く読み・考える力が細っていることを感じます。いや、意識して深めている生徒と無意識であるため弱まっている生徒に分かれているというべきか。国語の授業によって生徒の想像力や感受性を削っているというべきか。国語教育、特に入試を意識した国語教育に求められるのは、一部の難関校入試対策を除けば形式論理的ないったりきたりです。つまり、テキストのどこに何が書いてあるかを読み取り問題の誘導に沿ってその通り答えなさいということ。作文についてもフォーマットに沿ってまず形式的に作りなさいということ。そして、小説や詩と論説との構造の違いは無視して、全ての文種について形式論理的な読解をまず叩き込みます。少なくとも私はそうします。手っ取り早く点数を挙げて入試に合格させるのが仕事ですので。その弊害として、言語の余白をそぎ落とされた生徒が量産されて大学に送り込まれているのですが、指導要領で小説の読解が減らされるとさらにその傾向が加速するんでしょうね。テキストに直に向き合い、深く考え没入するという人文のイロハは本来中学高校で基礎づけられるべきなんですが。
【アーサー王物語】
今回、最もノリノリで印象的だったのはアーサー王が専門の小宮真樹子さんでした。Zoom画面の向こうにフルプレートのアーマーをでんと据えて、「これが見せられただけで満足」と嬉しそうに語っていました。ハイテンションが強く印象に残りました。今日はこの後この方に会いに行く予定ですが。
私もファンタジーファンの基礎教養としてアーサー王伝説については一通り頭に入れているつもりでしたが、キャクストン版は完読しているけれどウィンチェスター版は完読していないことに今さらながら気が付きました。まだまだ読書量が不足していますね。中世英語には情けないですが歯が立たないので、翻訳を読むしかないんですが、青山社版は入手が難しいですからねえ。目についたところで押さえるしかないですかね。
以上、本旨とは全く関係のないまとめ(??)でした。お相手いただいた関係者の皆様、どうもありがとうございました。次の8/28のセッションは仕事とぶつかるので、いつ参加できるのやら・・・。
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