『英雄なんかどこにもいない』短評
今回のレビューは、先月発売のブコウスキーの短編集です。
ブコウスキーの未訳短編がまとめて読める。刊行自体が意義のあることですし、海外文学を追っている者としては必読であることも確かです。だが、しかし。あとがきには「残り物が寄せ集められたB級コレクションではない」、「濃密で本質的なブコウスキー体験をすることができる」と記されています。なるほど確かにブコウスキー的世界は濃厚です。古き良きカウンター・カルチャーのにおい、濃厚なセックスのテーマ、登場人物のはかなき孤独とそこからの癒しと再生、ばらまかれた独特のユーモア、水彩画を描くかのような独特の描写などなど、ブコウスキーは本のあちこりにいます。しかし、残念ながらそこまで。文学的な迫力・存在感を見せる重厚な短編はなく、似たようなフォーマットの再生が続いているような感が残りました。もちろん作者も編者も訳者も責めることはできませんが、やっぱり未収録・未訳なんだなあと思ってしまいました。