第51回星雲賞に対する雑感
毎度毎度の遅ればせですが、ようやく星雲賞授賞式のWEB配信をじっくり見る機会が取れましたので、各部門について極私的にコメントしていきたいと思います。プラスコメントもマイナスコメントもありますが、ご容赦いただければ幸いです。
【日本長編部門】
これは文句なしの本命サイド。私も〈天冥〉に投票しました。候補作の中には『ヒト夜の永い夢』『宿借りの星』といった過去の受賞作と比べても劣らぬ水準の作品がありましたが、長大なシリーズを描き切ったというスケールが段違いであり、他の候補作とは明らかに開きがありました。
【日本短編部門】
「不見の月」/菅浩江/『不見の月 博物館惑星Ⅱ』収録
候補作に同水準の短編が並び、乱戦状態になったと思われる日本短編部門。これまでのSF界に対する功労も加味して菅浩江が持っていったというところでしょうか。「平林君と魚の裔」「ひかりより速く、ゆるやかに」「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」「もしもぼくらが生まれていたら」「サーペント」「追憶の杜」と並んだ候補作はなかなか甲乙つけがたく、私はどれにするか散々迷って「平林君」に投票しました。裏を返せば、それなりに高い水準の戦いだったもののオールタイムベスト級の飛び抜けた短編はなかったという言い方もできるわけですが。
【海外長編部門】
これは超本命が手堅く持っていきました。多くのコメントは必要ないでしょう。私も否応なしに『三体』に投票しました。乱戦となる年であれば『巨神降臨』『銀河核へ』あたりの受賞もありえたかもしれませんが、運がなかった(??)ということです。
【海外短編部門】
「不気味の谷」/グレッグ・イーガン/『ビット・プレイヤー』収録
テッド・チャン、ケン・リュウ、グレッグ・イーガンという豪華なダンゴが形成され、2020年度において最もハイレベルだった部門でしょう。三者いずれもがオールタイム・ベスト級の短編を擁し、SFファンに対する「映え」だけでなく知的刺激・思弁性に富んだのが嬉しかったところです。私は作品の思弁性に重きを置いてチャン「オムファロス」に投票しました。
【メディア部門】
『彼方のアストラ』
TVアニメ「彼方のアストラ」公式 (@astra_anime) | Twitter
極私的には「該当作なし」です。『彼方のアストラ』はSFミステリとして一定水準のアニメだと思いますが、2019年のアニメの中で、極私的に思弁性や批評性を高く評価していた『海獣の子供』『ケムリクサ』が候補作に入らなかったため、候補作の中に強く推せるものがありませんでした。「その他」から『海獣』に投票しても良かったんですが、星雲賞については候補作の中から律義に選ぶと決めているので、迷った挙句やけ気味に『シンカリオン』に投票しました。
【コミック部門】
例年受賞作が読みにくい部門で2019年も乱戦だったように見えますが、僅差での2作受賞というところでしょうか。私は『ロボ・サピエンス全史』に投票しました。SFとしてのテーマ性や思弁の強度なら『ロボ』だと思うんですが、スペキュレイティヴな作品はよほど宣伝・喧伝されたものでないと支持が広がりにくいですね。
【アート部門】
第51回星雲賞、アート部門を受賞させて頂きました。
— シライシユウコ (@ui_uli) 2020年8月22日
ありがとうございます。
皆様のお陰です。
私には絵しかお返しできるものがないので、感謝の意を込めてありがとう絵を描きました。#星雲賞 pic.twitter.com/5ITnGn6vQu
自分も投票した、推しのイラストレーターが受賞したので文句ないです。
【ノンフィクション部門】
メディア部門同様ここも極私的には「該当作なし」です。SF界隈の内輪うけはどうでもいいです。批評としての強度で判断したとき、推せる候補作はありませんでした。皆さん、ちゃんと全部読んでから投票していますか? 小松左京という名前だけで推していませんか? ちゃんと批評を批評として読んでいますか? SF外の論者が小松左京を取り上げたことが嬉しくて色眼鏡をかけていませんか? 結局、私はSF史的な労作ということで『日本SF誕生 空想と科学の作家達』に投票しました。
【自由部門】
ブラックホール初の撮影
科学史上におけるコペルニクス展開である「ブラックホールの撮影」が選ばれて安堵しました。《SFマガジン》も《SF傑作選》もいいですが、やはりSF者としては科学の偉大な事象に健全に反応しなければいけないと思います。