『サブリナとコリーナ』短評
今回のレビューは先日発売のクレストブックスの新刊からです。今年読んだ海外文学の中では極私的ベストかもしれない傑作です。
カリ・ファハルド=アンスタインの初邦訳短編集。デビュー作にして全米図書賞最終候補、そしてニューヨークタイムズの年間ベストにも入ったというなかなかの触れ込みです。原文で既読の作品でしたが、繊細な訳文で味わいが増した印象があります。
作品にセックスや暴力的な描写がないため、幅広い層に受け入れられる素地を有しています。譬えていうならコロラド版の人情噺が並んでいるので、日本人の感性にはマッチする短編群。文学性は高いですが斜に構えた高踏ではなく地に足をつけた大衆小説のつくりなので、ページを繰る余計なエネルギーもいりません。
あとがきで作者がマンローやモリスンに喩えられていました。まだ若書きの印象もありますが、なるほど納得の襞と奥行き。作者はコロラドのチカーノ出身で、作品の題材もチカーノ。移民やマイノリティを扱った文学というのは強いメッセージを有するものですが、この短編集が有するパワーも強力です。しかし、それが直接のマニフェストやパフォーマンスではなく物語や登場人物から自然と滲み出してくるところが、恐らくはこの作者の技量及び文学性の高さを示しているのでしょう。
極私的には恐らく年間ベスト候補に入る傑作。必読と申し上げておきましょう。