otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2020極私的回顧その31 ホラー・怪奇

 極私的回顧、遅れに遅れていますがようやくラスト前まで来ました。毎年のお断りですが、読んでいる冊数が少ないので、国内外の作品をまとめて配しております。また、こちらもいつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。

 2019極私的回顧その31 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

2018極私的回顧その23 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

2017年極私的回顧その23 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

2016極私的回顧その23 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp) 

SFが読みたい! 2021年版

SFが読みたい! 2021年版

  • 発売日: 2021/02/10
  • メディア: ムック
 

 

【マイベスト5】

1、アラバスターの壺/女王の瞳 ルゴーネス幻想短編集 

  2020年度の1位はクラシック。アルゼンチンの幻想文学のパイオニア、ルゴーネスの短編集です。幻想より怪奇色が強いと判断してここに置きました。執筆当時の科学知識と幻想がうまく溶け合ったオリエンタルな怪奇幻想・SFの風味に、南米マジックリアリズムに通じる土着の雰囲気や魔術性が程よく入り込んできます。訳者解説で触れられている神智学やモデルニスモなどの関わりも知的興味をそそられました。

 

2、Another2001 

Another 2001

Another 2001

  • 作者:綾辻 行人
  • 発売日: 2020/09/30
  • メディア: 単行本
 

 ミステリとしての完成度が高いのはもちろんですが、3年3組の関係者に不可解で悲惨な死が次々と訪れ、ホラーとしてもページを繰らせる魅力が十分あります。800ページを超える大部ですが一気に読めました。日常の世界が突然恐怖に変わる瞬間は、パンデミックに揺れる今の現実世界においては既視感があります。さらなる続編も考えているそうなので、楽しみに気長に待ちましょう。

 

3、幻想と怪奇 

幻想と怪奇 1 ヴィクトリアン・ワンダーランド 英國奇想博覧會

幻想と怪奇 1 ヴィクトリアン・ワンダーランド 英國奇想博覧會

  • 発売日: 2020/02/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
幻想と怪奇 4 吸血鬼の系譜 スラヴの不死者から夜の貴族へ

幻想と怪奇 4 吸血鬼の系譜 スラヴの不死者から夜の貴族へ

  • 発売日: 2020/11/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
幻想と怪奇3 平井呈一と西洋怪談の愉しみ

幻想と怪奇3 平井呈一と西洋怪談の愉しみ

  • 発売日: 2020/08/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
幻想と怪奇2 人狼伝説 変身と野生のフォークロア

幻想と怪奇2 人狼伝説 変身と野生のフォークロア

  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  伝説の《幻想と怪奇》が再び動き出し、コンスタントに出続けてくれたので、企画自体に対する評価です。怪奇幻想の専門誌は限らていれるので、頑張ってほしいです。出る限りは買い支えますので、独自の切り口を守り抜いてほしいと思います。

 

4、ブラック・トムのバラード 

  クトゥルフ神話系からはこちらを推します。幼い頃から邪神に魅せられていた作者は、後年ラヴクラフトが人種差別主義者であったことを知ってショックを受けたそうですが、その交差する愛憎の思いがぶつけられた異色作にして良作です。黒人青年の主人公の視点を据えることで、短編「レッド・フックの恐怖」が有する人種差別的な偏見を鮮やかに転倒させ現代にアップデートした手腕が見事です。

レッド・フックの恐怖 - Wikipedia

 

5、真夜中のたずねびと 

真夜中のたずねびと

真夜中のたずねびと

 

  恒川光太郎の作品ですが、いつもの明るい幻想ではなく、人間の負の感情にひきずられた現実世界の怒りや憎悪がメインです。混沌とした曖昧な闇の空気が読者をじりじり引っ張ります。陰惨な短編が並びますが、読後感が爽やかなのは、物語の最後に救いを用意しているから。そこはやはり恒川ワールドなのでしょう。

 

【2020年とりあえず総括】

 コロナの影響で閉鎖的な生活を送っていると、ゾンビ物の世界に迷い込んだような錯覚を覚える、というのはやはりホラーの読みすぎでしょうか。2020年も内外ともに豊作でした。特に国内の良質なホラーが夏から秋口にかけて次々に刊行され、文字通りの「ホラーの夏」が訪れたのは、怪奇幻想の読み手にとってはたまらない数か月でした。海外作品もクラシック、クトゥルフモダンホラーと十分な質量が繰り出され、良い作柄でした。

 あとは大作が出てくれば・・・というのも毎年書いていることですが、さすがにそろそろジャンル・ホラーが運動体として活発に動いていることを認めなければいけないと思うので、水を差すようなコメントは控えましょう。

 SFの項でも書きましたが、最後に、小林泰三さんに改めて追悼の意を捧げます。