『‟もしも″絶滅した生物が進化し続けたならifの地球生命史』短評
今回のレビューは2月に発売された「もしも絶滅した生物が進化し続けたなら」というifの世界を生物学的に考察・空想したビジュアル本です。
もし生物が絶滅せずに独自の進化を遂げていたら。あるいは人類が存在せず、または人類が絶滅した世界で、生物はいかなる進化を遂げるのか。SFではなく生物学的にそんな考察・空想を発展させた本といえば、やはりドゥーガル・ディクソンの一連の仕事が最も魅力的でしょう。当ブログでも以前取り上げています。
ドゥーガル・ディクソンの生物群①~アフターマン&新恐竜~ - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
ドゥーガル・ディクソンの生物群② フューチャー・イズ・ワイルド - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
『アフターマン』
『新恐竜』
『フューチャー・イズ・ワイルド』
前置きが長くなってしまいましたが、ドゥーガル・ディクソンの仕事はまた別途見ていただくとして、本題の『ifの地球生命史』のコメントに参りましょう。
楽しくページを繰ることのできるビジュアル本ですが、生活環境、形態、学名、進化の系譜、派生種などが詳しく記載されていて、生物学・古生物学に関する知識があるとより深く楽しめるでしょう。気候や植生などは本来の地球史をそのままなぞりながら、現在の地球生物の形状や習性をアイデアソースとして、新たな生物を収斂進化的に創造=想像する。『新恐竜』『フューチャー・イズ・ワイルド』などと同様に、非常に胸躍る思考実験です。科学的な裏付けがしっかりしており、精細なイラストで描かれているため、彼らが実際に存在したのではないかという錯覚を抱くほど強固なリアリズムが確立しています。
そして、この本の最大の魅力であり特徴は、とにかく網羅している範囲が広いことでしょう。恐竜、あるいは現生の哺乳類、魚類や頭足類など、メジャー(??)な生物群についてはこれまでも思考実験が行われてきました。もちろんこの本でも中生代のifは恐竜、新生代のifは哺乳類が中心です。しかし、極私的に最大の見どころは古生代のifです。三葉虫、腕足動物、板皮類、ウミサソリ、エダフォサウルス、ディプロカウルスなど、古生代に姿を消した古生物群が思考実験の対象とされることは、これまでほとんどなかったと思います。ビジュアル的に映えるアノマロカリスや三葉虫だけでなく、腕足動物まで登場するとは驚きました。古生代にはベントスではない腕足動物もいっぱいいたんですね。