otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

『家は生態系―あなたは20万種の生き物と暮らしている』短評

 GW中、私事でバタバタしていたため、久しぶりの更新になります。コンスタントな更新がなかなか難しいですが、飽かずお付き合いいただければ幸いです。今回は、今年2月に発売された科学ノンフィクションのレビューです。

  

家は生態系―あなたは20万種の生き物と暮らしている
 

  まさに目からウロコ。家の中がこんなことになっていたとは・・・。

 人間の家の中にたくさんの生き物がいる。まあ、いつも目に付くところで昆虫だのクモだの見かけますし、カビや細菌など微生物もたくさんいるでしょうから、そんなことは分かっている、と言いたくなります。この世は微生物や小動物などであふれているのですから。しかし、この本に出てくる数は想像を超えています。

 1軒の家から見つかった生物種はなんと20万種。200や2000ではありません。20万です。しかも、日本を含む様々な国の人家の調査結果が同じようになり、家の中の生態系は野外の生態系に劣らぬほど多様性に富んでいました。人間の知らないところで豊かな生態系が出来上がっていたのです。

 我らが同居人たちは野外からふらっと入ってきた侵入者ではありません。例えば、家の中で見かけるチャバネゴキブリは長年人家に適応して進化してきたため、アフリカ原種のの生息域であった野外ではもはやほとんど生き残れないとのことです。これと同じように、多くの生物が長年人家に適応して進化して、人家専門の種になっているとのことです。洗濯槽の中のカビが洗濯槽に特化した進化をして別種になりつつある、という話は読んだことがありましたが、同じような進化が無数に起こっているというのは驚きでした。

 ゴキブリを筆頭に、我々人間は同居人に対して快い対応をしません。何とか除去しようとします。しかし、人家に適応した同居人たちを追放するのは不可能です。薬剤などで害虫や害獣を駆除しようとしても、いずれ耐性が進化していたちごっこが続くだけです。また、薬剤が害虫以外の生物を死滅させて思わぬ悪影響が出ることもあります。

 ゴキブリやハエが気になるなら、クモに食べさせれば効率的に駆除できます。寄生バチは我々の知らないところでせっせと駆除の手伝いをしてくれます。野外でも家の中でも、今ある生態系をへたにいじろうとするのではなく、現実的にうまく対応する術を考えていくのが一番よさそうです。

 また、ある種の土壌細菌が喘息に対する免疫力を高めたり、発酵食品に在来の酵母が用いられたりするなど、同居人の中には人間に有用な生物たちも少なからずいるようです。駆除ではなく相互共生。この発想に立てれば我々人間にとってもベストなんでしょうが。ゴキブリを見かけて悲鳴をあげているうちは難しいんでしょうね・・・。