ルリゴキブリ属
生物系のテキストは久しぶりですね。今回は、タイトルからお察しの通り、とある画像・映像が複数出てきます。お読みの際はどうぞご注意ください。
まず、前提として申し上げておきますが、ゴキブリは機能的で美しい昆虫です。また、繊細で弱い部分の多い、たおやかな側面を秘めた昆虫でもあります。
昨年から、新種のゴキブリが日本で次々に発見されており、貴重な科学的成果として極私的にもその動向に注目しています。
35年ぶりに日本からのゴキブリ新種の発見! 南西諸島からみつかったゴキブリ類(昆虫亜綱)2種を新種として発表!|学校法人 法政大学のプレスリリース (atpress.ne.jp)
【プレスリリース】美しいゴキブリを宮古島から新種として発表【新種発見】 | 磐田市竜洋昆虫自然観察公園 (ryu-yo.jp)
これで日本で発見されたルリゴキブリ属は全部で4種類となりました。4種をまとめた画像がこちら。
前回の論文では日本の南西諸島からアカボシルリゴキブリEucorydia tokaraensisとウスオビルリゴキブリEucorydia donanensisの2種を記載しました!
— Shizuma (@UABIrurigoki) 2021年6月29日
日本産ルリゴキブリ属は今回の記載で合計4種となりました!個性豊かな美しいゴキブリたちです!https://t.co/zgode8J2qG pic.twitter.com/LCMZQJQlGa
ゴキブリというと衛生害虫というイメージが先行して忌み嫌われていますが、そもそも生活していてゴキブリによる実害はほとんどありません。太古から姿の変わらない生きた化石であるとか、生命力の強い昆虫であるとか、誤ったレッテルを張られています。しかし、人家で我々と同居しているチャバネゴキブリやクロゴキブリなどは人間の家屋に合わせてこの数千年独自の進化を遂げてきており、もはや野外で生きていく力を持っていない、か弱い昆虫です。我々はゴキブリに対する誤った認識を改め、彼らとトラブルを起こさず同居していくべきです。
というか、そもそもちゃんと部屋の中を清潔にし、エアコンを設置せず屋外と同じ温度にしていれば、ゴキブリはほとんど出ません。それに出たとしても、部屋の中にクモやムカデがいればゴキブリを片付けてくれます。まあ、そもそも私は部屋の中にゴキブリが出ても特に気にはしませんが。
そもそもゴキブリはそのほとんどの種が森林の落ち葉の下などに住んでおり、人間とはほとんど関わらない生活をしています。雑食性で落ち葉や動物の死骸などを分解して土に還す分解者としての役割を行っていて、シロアリなどとともに縁の下の力持ちとして森の生態系を支えています。
ゴキブリとシロアリは、かつては異なるグループとされていました。しかし、シロアリはキゴキブリから進化したゴキブリの1グループであることが分かっており、現在は同じ目に収められています。
琉球大学熱帯生物圏研究センター徳田岳研究室:研究トピックス (u-ryukyu.ac.jp)
キゴキブリCryptocercus
— Shizuma (@UABIrurigoki) 2020年1月18日
ついに実物を拝むことができました。
とてつもなくいいゴキブリです。
集団で生活を送り、子育てを行うことが知られています。クチキゴキブリ同様に好きな仲間なのですが、飼育している方がとても少ないので、なかなか生きた姿を見ることができませんでした。感無量です。 pic.twitter.com/Wz1uWYFQ39
また、カマキリはゴキブリから進化した近縁のグループであることが知られています。
#今日の絶滅昆虫
— たてぃとぅてと(古生物と虫) (@Fossil_TTTTT) 2020年8月21日
ファイター型ゴキブリ ラプトブラッタ
学名:Raptoblatta(Raptare[略奪者]blatta[ゴキブリ])
分類:昆虫綱網翅上目(Dictyoptera)(ゴキブリ目とカマキリ目を含むグループ)
生息年代:白亜紀前期
発見地:ブラジル
体長(翅含めず):21.7mm pic.twitter.com/ozFCvEw9Jy
さて、今回は屋内のゴキブリではなく、屋外のルリゴキブリ属についてでした。ぼちぼち本題に入りましょう。
ゴキブリはどうしてもその見た目で「気持ち悪い」と不当な扱いを受けることが多いですが、見た目にも美しい「美麗種」と呼ばれるグループもいます。日本におけるその筆頭格が南西諸島に生息するルリゴキブリ属でしょう。
ルリゴキブリが日本で最初に記載されたのは、上のリンク先のツイッターにもある通り、1991年だそうです。画像や映像だとどうしても青い色が強調されるだけにとどまりますが、実物はメタリックな青い輝きを放っていて、より美しさが際立ちます。
豊かな森林でないと生きていけず、限られた森林環境に住んでいる希少種であるため、野生での観察記録が少なく、その生態はあまり分かっていないそうです。オスに比べてメスの採集個体も少なく、野生での繁殖のありようなども不明な点が多いそうです。一方、この美しい見た目から、マニアによって採集されたり、ネットオークションで取引されたりすることもよくあり、野生の生息数の減少が問題視されているそうです。
日本ではルリゴキブリ1種が記載されたのみで、長らく同じグループの種が発見されていませんでした。しかし、昨年、35年ぶりに日本でゴキブリの新種が2種、しかもルリゴキブリ属が2種発見されたということで、大きな科学ニュースになりました。
珍獣図鑑(9):日本から35年ぶりに新種エントリー! ゴキブリの概念を覆す美麗種、ルリゴキブリ | ほとんど0円大学
映像の左が奄美大島で発見されたアカボシルリゴキブリ、右が与那国島で発見されたウスオビルリゴキブリです。美しい昆虫ですねえ。最初は同じ種類と思われていたそうですが、遺伝子解析の結果、別種と判明したそうです。台湾のルリゴキブリとは姉妹群だそうなので、かつて陸続きだった時に同じ種だった先祖から、それぞれが島として孤立して独自の進化を遂げたというところでしょう。
そして、この興奮がまだ冷めやらぬ中、先日、また新たなルリゴキブリの新種が発見されたというニュースがありました。
【新種記載】
— Shizuma (@UABIrurigoki) 2021年6月29日
この度、宮古島から新種のゴキブリを記載しました!
ベニエリルリゴキブリEucorydia miyakoensis
森の中で暮らす日本一美しいといっても過言ではないGです!
生息地は僅かで絶滅の危機に瀕している可能性があります。
論文はリンクからぜひご覧ください!
https://t.co/3q64gj1ayE pic.twitter.com/yANNZ5kVvw
橙色の模様が鮮やかな美しい昆虫です。上のリンクの通り、日本一美しいゴキブリだと思います。昨年からの若きゴキブリストたちの大活躍は本当に素晴らしいと思います。今回の発見を機に、ゴキブリが美しい昆虫であるというイメージがきちんと広まってくれることを願いたいですが、まあ、それは難しいか。
ルリゴキブリ属はその美しさから採集者やファンの間でも珍重されているそうで、ネットオークションなどでも取引されているのを見かけます。
ベニエリルリゴキブリは生息地が限られているうえ、絶滅の危機に瀕している可能性があるということで、記載と同時に採集に制限のかかる希少種として指定されました。
【緊急指定種に指定されます!】#リュウジンオオムカデ、#ウスオビルリゴキブリ、#ベニエリルリゴキブリ が種の保存法に基づく緊急指定種に指定され、7/1から3年間捕獲・殺傷、譲渡しなどが規制されます。
— 環境省 (@Kankyo_Jpn) 2021年6月29日
緊急指定種とは?何が規制されるの?
詳しくはこちらhttps://t.co/E8ORXOx9Uu pic.twitter.com/z8XoUWUnaa
プレスリリースを見ていて、半水棲のムカデが存在しているという記載にはかなり驚いたのですが。リュウジンオオムカデは143年ぶりの国内のオオムカデの新種だそうです。こちらも美しいですねえ。
他に水棲のムカデはこんなのもいるそうです。うーむ。
世界初、水中を泳ぐオオムカデを発見 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
恐らく、今後もこうした希少な虫たちの研究と新種の記載は進んでいくのでしょう。一方で、人間に知られず絶滅していく虫たちも無数にいるはずです。希少種の保全と環境の保全、そして生物多様性の維持。これがひいては人間という種の存続のために不可欠であること。我々は強く肝に銘じるべきです。