『妖精が現れる! 〜コティングリー事件から現代の妖精物語へ (ナイトランド・クォータリー増刊)』感想
毎度毎度の遅ればせで恐縮ですが、今年、当ブログで継続的に扱っているコティングリー関連で、《ナイトランド・クォータリー》の増刊が先月末に出ておりますので、雑駁ながら感想をまとめていきます。
『コティングリー妖精事件 イギリス妖精写真の新事実』 - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
ファンタジーファン及び怪奇幻想の徒としては、タニス・リー、パトリシア・A・マキリップ、ジェフリー・フォード、石上茉莉、高原英理と名前が並んだ時点で問答無用で買いです。極私的にお勧めの短編は2篇です。まずタニス・リー「エルフの眷属」。タニスにしては珍しいロー・ファンタジーでシンプルな妖精譚です。ある登場人物の語りに古英語・中英語の色を付けるなど、彼女らしく細部への繊細なこだわりのある美しい短編です。もう1つはマキリップ「ウンディーネ」。ラファエル前派に着想を得た作品とのことで、小品ですが水の精が躍る麻薬的で濃密な一枚絵となっています。できれば岡和田晃が紹介していたデリア・シャーマンやアリソン・リトルウッドの作品も読んでみたかったところですが、残念ながら未収録なので原書をあたろうと思います。
コティングリー関連の資料としては、上記リンクの井村君江の講義内容の再確認にもなりますが、リーズ大学のブラザートン・コレクションを調査したときの記録が複数収録されています。子供の遊びの上に大人の事情が幾重にも絡んだ結果、大人たちの思惑と少女たちのリアルでピュアな心情の齟齬が生じてしまったことが、実にもどかしく思えます。少女たちは大事にせず、あくまで子供のいたずらにとどめてほしかったはず。やはり妖精は子供たちにしか見えない無垢な表象であるべきなのです。
また、エドワード・L・ガードナー「妖精の写真―コティングリーでの撮影」は、1920年代当時の妖精写真を巡る比熱と心霊主義の昂揚が感じられるテキストです。21世紀現在の科学的視点からガードナーを断じることは簡単です。しかし、心霊と科学とは相克するものではなく、オカルト的にはコティングリーに異界はあり・妖精は確かにいます。 この事実を踏まえたうえで、コティングリーを20世紀の精神史の中にしっかり位置づけ、評価すべきなのでしょう。
文芸・資料・論考それぞれ興味深いテキストが並んだ、濃密でバラエティに富んだ1冊です。今のところ極私的には《NLQ》ではこの増刊がベストだと思います。