otomeguの定点観測所(再開)

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第60回日本SF大会 SF60レポートその5 博物館惑星創作の秘密

 それでは、SF60関連のレポートはこれで一応最後になります。今回は菅浩江さんの博物館惑星創作の秘密、オキシタケヒコ主催の企画でした。

  

菅浩江 - Wikipedia

菅 浩江 noteで小説作法とオタ界隈の話書いてますさん (@Hiroe_Suga) / Twitter

オキシタケヒコ - Wikipedia

オキシタケヒコさん (@TakeOxi) / Twitter

 今回の企画は、お二人がパネルで進めていたものですが、オキシタケヒコさんが博物館惑星大好きだそうで、溢れんばかりの愛を存分に語りつつ、菅さんが執筆時のエピソードを披露していくという流れでした。博物館惑星で評価できる部分は、文章が丁寧であること、雰囲気が美しいことなどもありますが、やはり構成が細密であること。オキシタケヒコさんもこの点を非常に高く評価していました。

 私は博物館惑星を恐らく《SFマガジン》における最初の短編掲載の時から読んでいるのですが、当時の《SFマガジン》は(今もそうですが)翻訳SF主流だったので、なかなか短編掲載の機会が得られなかったとのこと。最初はシリーズ化する予定ではなかったそうですが、好評だったようで、2本・3本と掲載されるうちに安定した評価を得ていったようです。

 博物館惑星といえば、『歓喜の歌』が前2作より刊行の大きく年月が開いたシリーズです。最初は2巻完結だったので、再開時には相当なプレッシャーがあったとのこと。評価の高かった作品だけに、前作を下回る出来だと叩かれるので、その点が作家の方にはプレッシャーになるそうです。これはお二方ともしみじみと語っていました。また、二人とも小説を書くのは好きではなく苦痛であるとのこと。エッセーやWEB上の散文などとは異なり、小説は作り上げるのに膨大な労力と苦闘を伴うようです。この辺りはプロの作家でないと分からない心理なので、読み手もきちんと書き手に敬意を払って作品にあたらなければいけませんね。

 作中に登場する美学・芸術論のくだりは、やはり相当勉強なさったとのことです。美そのものではなく美しいと思う心を核に展開された作品なので、美学的なくだりと抒情的な要素がバランスよく混淆されているところがこの作品の魅力。菅さんのロマンチックな筆致が全体をうまくまとめている印象があります。

 もう9月で芸術の秋になりますから、またこのシリーズを読んでみますかね。

 

 とりあえず、今回でSF60のレポートは終了とします。改めて、開催にこぎつけた関係者の方々に御礼申し上げます。来年は福島ですが、何の憂いもなく参加できる状況になっているといいなあ。