otomeguの定点観測所(再開)

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『インド洋 日本の気候を支配する謎の大海』

 今回のレビューは、8月に発売された講談社ブルーバックスです。

 

 『日本海』『太平洋』に続く、海洋シリーズ第3弾。日本ではなじみの薄いインド洋が今回の題材です。

 タイトルから想像すると海洋学・気候学の本のようですが、実際の内容は地質学や生物学、歴史社会的な点にも触れた、インド洋に関する概説です。極私的には、スケーリーフットなどの熱水噴出孔の生物やシーラカンスが出てくる第5章、そして紅海とアデン湾の熱水噴出孔の調査の様子に触れた第6章が、生物に関心のある向きとしては面白かったです。文体も分かりやすく、多岐にわたる内容を手堅くまとめているので、『日本海』『太平洋』に続いて没入しながら読むことができました。歴史や物語文学など文系の読者にもとっつきやすい配慮もされています。

 ただし、amazonのレビューでも指摘されていましたが、問題は気候学を想起させるタイトルの付け方です。インド洋で発生する「ダイポールモード現象」による日本の気候への影響は第3章で解説されているのですが、そもそも筆者は気候・気象の専門家ではないので、あくまでメインは第4章以降の深海について触れたところ。名が体を表さずというやつです。前2冊と同じく「その深層で起こっていること」でよかったと思います。

ダイポールモード現象 - 理学のキーワード - 東京大学 大学院理学系研究科・理学部 (u-tokyo.ac.jp)

ダイポールモード現象 - Wikipedia

気象庁 | インド洋ダイポールモード現象の発生期間と指数 (jma.go.jp)