すっかり更新が滞り、例年より一月遅れになっておりますが・・・。極私的回顧第11弾は海外のエンタテイメント小説です。いつものお断りですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
2020極私的回顧その11 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2019極私的回顧その11 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2018極私的回顧その5 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2017年極私的回顧その5 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2016極私的回顧その5 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
【マイベスト5】
1、悪童たち
WOWOWで放映された『バッド・キッズ 隠秘之罪』の原作小説です。イノセントな少年たちが悪に染まっていく過程を描いた黒きビルドゥングス・ロマンにして、殺人者との息詰まるような攻防を描いたサスペンスです。無垢ゆえの残酷さが醸し出す鋭利さは、ドラマよりも小説のほうが際立っているように感じられました。2021年は傑作が林立した年でしたが、このアジアン・ノワールの傑作を1位に推します。
バッド・キッズ 隠秘之罪 | ドラマ | WOWOWオンライン
2、少年は世界をのみこむ
2019年、オーストラリアで最も売れたというフレコミの作品です。血と暴力と麻薬のリアルな記述が読者を突き刺します。しかし、主人公の少年の視座から描かれた清々しさと、彼の成長していく様が物語の駆動力となり、読者を牽引します。ハードで正攻法な作品だからこそ、読者として正面から受け止めるべきです。終盤に伏線を一気に畳む構成力も素晴らしく、極上にして骨太のサスペンスです。
3、ミラクル・クリーク
バージニア州の地方都市、ミラクル・クリーク。1年前に起きた放火殺人事件の犯人として起訴されたのは、自身も火災で子供を失った、コリアン移民の母親でした。先入見や偏見に基づく杜撰な捜査や虚偽の証言が法廷において次々と暴かれるリーガル・ミステリであり、真犯人を追うフーダニットでもあります。しかし、最も印象的だったのは、未だ差別と偏見に苦しむアジア移民たちの現実とアメリカ社会の歪みでした。
4、レヴィンソン&リンク劇場 皮肉な終幕
『刑事コロンボ』生みの親のコンビ、レヴィンソンとリンクの短編集です。『コロンボ』においては、倒叙の構成や軽妙なキャラクターも魅力でしたが、反則すれすれの手段やハッタリを駆使してコロンボが犯人を追い詰める捜査手法も痛快でした。『コロンボ』の原点といえる、ひねりとオチのきいた短編が並んでおり、この短編群を題材にした『コロンボ』の新作を夢想しながら愉しく読めました。
5、マイ・シスター、シリアルキラー
ナイジェリア発のアフリカ・ミステリです。妹が3人目の殺人を犯し、「シリアル・キラー」の称号を得たことから始まる物語。異常状況を描いたスリラーであり、殺人者の家族を視点にしたクライムノベルでありながら、ナイジェリアのアッパーな雰囲気が明るい家族小説の趣も醸し出す、多彩な襞を有するエネルギッシュな作品です。
【とりあえず2021年総括】
2021年の海外ミステリは傑作・佳作が林立する、近年まれに見る豊作でした。英米欧だけでなく世界各国のミステリが楽しめるのは日本の翻訳状況の活発さのおかげ。関係者の皆様に改めて御礼を申し上げます。特に、1位にあげた『悪童たち』に代表される華文ミステリの充実ぶりは相変わらずで、2022年もまだまだ楽しめそうですね。
しかし、皆さんご存じの通り、中国当局が香港を含め言論を弾圧しているため、中国における創作のエネルギーが急減することが憂慮されます。恣意的な国策からではなく、自由闊達なカオスの中からこそ優れた作品が生まれるのですが、いつの時代も為政者たちは無粋なものです。