極私的回顧第12弾はミステリ系エンタテイメント(国内)です。いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
2020極私的回顧その12 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2019極私的回顧その12 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2018極私的回顧その6 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2017年極私的回顧その6 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2016極私的回顧その6 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
【マイベスト5】
1、インタビュー・ウィズ・ザ・プリズナー
皆川博子によるターナー三部作が遂に完結しました。アメリカ独立戦争の陰惨な裏側に巻き込まれ、翻弄されるエドとクラレンス。悲しくも美しいラストは慟哭なしには読めません。薫り高い幻想文学であり、耽美なホラーにしてモダン・ファンタジーであり、重厚な歴史小説であり、堅牢なミステリであり。様々なジャンル小説の精華を結集させた、オールタイムベスト級の傑作です。
2、闇に用いる力学
26年にわたる作者渾身の連載が完結し、結実しました。パンデミック、異常気象、差別やヘイト、怪しげな宗教や思想の跋扈など、混沌たる2020年代の世界を予言したかのような黙示録小説です。オカルトやスピリチュアリズムの知見が各所に散種され、世界を動かす大いなる意思が駆動する様、竹本健治の筆が躍りに躍る傑作です。1位にするかどうかかなり迷いましたが、こちらも間違いなくオールタイムベスト級の作品です。
3、テスカトリポカ
直木賞と山本周五郎賞を同時受賞した、今更紹介するまでもない話題作ですね。全編が壮絶な暴力描写に覆われ、経済システムの隙間をつく金儲けの手管や、社会的弱者の心理につけこむ手管など、資本主義の闇をえぐる描写が極めてリアル。そして、物語を支える、古代アステカ神話という不気味な柱。主人公・バルミロは神に捧げるため生きた人間の心臓を求め、バルミロに傾倒するもう一人の主人公・コシモは無垢な魂ゆえの凶暴さをむき出しにします。マジックリアリズム的な陰翳を有する、オールタイムベスト級のクライムノベルにして重厚なノワールです。
4、機龍警察 白骨街道
こちらも今更紹介するまでもない傑作ぞろいのシリーズです。今回も安定のクオリティでした。物語の舞台をミャンマーに移し、インパール作戦もかくやという無謀な任務に挑む主人公たち。現実のミャンマー情勢もとりこみながら、チームの捜査と冒険が圧倒的な迫力で展開されます。国内についてのスパイ小説的な語りや(残念ながら機龍は登場しませんが)戦闘シーンなども相変わらず素晴らしく、シリーズの中でも屈指の完成度の作品でしょう。
5、アンデッドガール・マーダーファルス3
やっと出た、待望のシリーズ第3弾です。特殊設定ミステリの作品ですが、本格以外の魅力も多いので、こちらに入れました。舞台は、吸血鬼やホムンクルスや名探偵が闊歩する19世紀ヨーロッパ。作中の二つの連続殺人事件の構図自体はオーソドックスですが、あえて開放されたサークルでフーダニットを展開させ、かつ人狼の存在自体を事件の手掛かりとするなど、本格としての完成度はさすが。人ならざる者が存在するが故の社会問題にまで踏み込み、物語に奥行きを持たせています。
【とりあえず2021年総括】
ミステリ系の回顧で書いてきたとおりですが、近年まれに見る豊作の年でした。オールタイムベストという言葉を連発していますが、エンタテイメントとして普遍的な強度を有した傑作・秀作が相次いだので、仕方がないです。新しい才能の登場、順調に育っている中堅、そして衰えぬ輝きを放つ大御所。各世代が激しく切磋琢磨しながら、豊饒な作品群が生産され続ける。満腹なのに過剰な摂取を続けた、ミステリ読みとしては非常に幸福な1年でした。
『黒牢城』は歴史・時代の項に回したので、次々回にレビューします。