otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2021極私的回顧その31 ホラー・怪奇

 極私的回顧、ついに4月に入ってしまいましたが、ようやくラスト前まで来ました。毎年のお断りですが、読んでいる冊数が少ないので、国内外の作品をまとめて配しております。また、こちらもいつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。

 

2020極私的回顧その31 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開)

2019極私的回顧その31 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開)

2018極私的回顧その23 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開)

2017年極私的回顧その23 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開)

2016極私的回顧その23 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開)

 

【マイベスト5】

1、死人街道

 2021年度の1位は久しぶりのランズデール作品に。あとがきにある「ウィアード・ウエスト」という用語は不勉強ながら初見でしたが、つまりはホラーのホースオペラ。斜に構えたアンチ・ヒーローの牧師である主人公・ジェビダイアが派手な立ち回りで敵を粉砕していく、単純明快でド派手な活劇です。ランズデールは様々な作風を有する作家ですが、やはりこういうB級ものが一番面白いと思います。

 

2、ネオノミコン

 「ラヴクラフト」+「アラン・ムーア」+「凌辱」の好ましき化学反応。魔術的で淫靡で不道徳であるからこそ暗黒の神話が宿す原初の力が昂るのであり、凌辱と破壊に満ちた力強い表現が終盤に至るにつれて否応なしに力を増していきます。アメリカでは図書館や学校から排除された書籍になったそうですが、日本ではこのレベルの凌辱表現を行う18禁コミックは昔から存在するので、そこまで拒絶反応は出ないでしょう。

ネオノミコン - Wikipedia

 

3、願わくは彼女の眠り続けんことを

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『願わくは彼女の眠り続けんことを』英國幻想奇譚集 - 書肆盛林堂

 モチーフの一端として幽霊を静謐に描き出す、2021年における最も美しいホラー短編集です。シンシア・アスキスは怪奇小説アンソロジストとして知られ、これまで短編集に収録されたことはありますが、単独での邦訳刊行は初めてだそうです。150部という同人出版で入手困難なのが惜しいところ。このクオリティなら商業出版でいけると思うのですが。

 

4、異形コレクション復活

 

 かの伝説のアンソロジー異形コレクション〉が9年ぶりに復活! 内外のホラーが活況にある中、やはりこのシリーズがないと格好がつきませんね。安定したクオリティで刊行が続いているので、嬉しい限り。出る限りは買い支えますので、よろしくお願いします。

 

5、ほねがらみ

 国内ホラーでは怪談物の活況が相変わらず続いていますが、2021年の怪談物ではネット小説発となるこの作品がベストだと思います。怪異譚の収集がやがて大きな一つの輪郭を描くメタ的な構成。あからさまな三津田信三リスペクトと民俗学の装い。実話会談の手法ながら途中から意図的にテキストを過剰に虚飾しているので、そこは好みが分かれるところか。

 

【2021年とりあえず総括】

 この数年続いているジャンル・ホラーの活況は2021年も健在でした。海外作品は相変わらずクラシック・クトゥルフモダンホラーと分厚く提供されており、華文ホラーの紹介も始まったので、いよいよSF・ミステリからの華文の流れがホラーにもやってきた印象です。国内ホラーも怪談物やアンソロジーだけでなく長編も粒が揃い、まずまずの作柄だったと思います。久しぶりにホラー専門の文庫が始まるなど、見通しは明るそうですね。

二見ホラー×ミステリ文庫|二見書房

 毎年書いていることですが、あとは大作級の作品の登場を待つばかりかと・・・。