otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2021極私的回顧その32 科学ノンフィクション

 極私的回顧ようやくラストです。結局4月に入り、最も遅い進行になってしまいました・・・。来年度はジャンルを絞らないとだめかなー。

 科学ノンフィクションについては、ジャンル全体を俯瞰するのが難しいため、ベスト5の感想のみにとどめております。また、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。

 

2020極私的回顧その32 科学ノンフィクション - otomeguの定点観測所(再開)

2019極私的回顧その32 科学ノンフィクション - otomeguの定点観測所(再開)

2018極私的回顧その24 科学ノンフィクション - otomeguの定点観測所(再開)

2017年極私的回顧その24 科学ノンフィクション - otomeguの定点観測所(再開)

2016極私的回顧その24 科学ノンフィクション - otomeguの定点観測所(再開)

 

【マイベスト5】

1、寝てもサメても 深層サメ学

 サメについての研究トピックを集めたコラム本です。メガロドンの知られざる実像、「生きた化石」といわれるサメが実はかなりの形態変化を遂げていること、サメの卵胎生といっても一筋縄でくくれるものではないこと・・・など、気鋭の研究者による熱のこもったコラムが非常に面白いです。サメの胎児の写真など、この本以外ではまずお目にかかれない写真や図版も多く、2021年に最も楽しめた科学ノンフィクションでした。

 

2、ネオウイルス学

 2020年の回顧でもウイルス関連の書籍を取り上げましたが、2021年に読んだウイルス関連の書籍ではこれが一番面白かったです。ウイルスの病原体としての側面にのみ注目が集まりがちですが、ウイルスが人間の体の維持に不可欠な存在であること、人類の進化に欠かせない存在であること、地球全体の環境や生態系の維持に深くかかわっていることなど、ウイルスが有する多様な役割や機能がいろいろな角度から紹介されています。

 

3、「木」から辿る人類史 ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る

 石器以前から人類はずっと木材を利用してきたのであり、その歴史と重要性にスポットを当てた本です。人類が地上に降りてからではなく樹上生活において二足歩行と肥大した脳を発達させた、という議論には無理な飛躍を感じてしまいましたが、人類史を新たな側面から語り直しています。また、現在の地球温暖化を解決するためにも、筆者は持続的な森林の回復と活用を促しています。

 

4、うんち学入門 生き物にとって「排泄物」とは何か 

 ゆるキャラ(??)「うんち君」が対話形式で「うんち学」を学ぶという、ツッコミどころ満載のシュールな構成のブルーバックスです。しかし、内容は排泄物から生物学の広い位相、そして環境科学にまで及ぶ広範かつ骨太なもので、薄く広く基本を学ぶことのできる教科書的な価値のある本です。

 

5、インド洋 日本の気候を支配する謎の大海

 そして、ブルーバックスからもう1冊。こちらは当ブログでレビュー済みなので、再掲します。

 タイトルから想像すると海洋学・気候学の本のようですが、実際の内容は地質学や生物学、歴史社会的な点にも触れた、インド洋に関する概説です。極私的には、スケーリーフットなどの熱水噴出孔の生物やシーラカンスが出てくる第5章、そして紅海とアデン湾の熱水噴出孔の調査の様子に触れた第6章が、生物に関心のある向きとしては面白かったです。文体も分かりやすく、多岐にわたる内容を手堅くまとめているので、『日本海』『太平洋』に続いて没入しながら読むことができました。歴史や物語文学など文系の読者にもとっつきやすい配慮もされています。

 ただし、amazonのレビューでも指摘されていましたが、問題は気候学を想起させるタイトルの付け方です。インド洋で発生する「ダイポールモード現象」による日本の気候への影響は第3章で解説されているのですが、そもそも筆者は気候・気象の専門家ではないので、あくまでメインは第4章以降の深海について触れたところ。名が体を表さずというやつです。前2冊と同じく「その深層で起こっていること」でよかったと思います。

『インド洋 日本の気候を支配する謎の大海』 - otomeguの定点観測所(再開)