それでは、相変わらず更新をさぼり気味で申し訳ないのですが、もう1本だけSF大会の企画レポートを雑駁ですがあげます。私がいつも顔を出しているサイバーパンクの部屋、パネラーはリアルでとりにてぃさん、菊池誠さん、そしてニューヨークからリモートで巽孝之さん、小谷真理さんといつもの皆さんでした。
慶應義塾大学文学部英米文学専攻巽ゼミ OBOG会公式ホームページ
Takayuki TATSUMI (@t2tatsumi) / Twitter
Kotani Mari (@KotaniMari) / Twitter
あ〜る菊池誠(反緊縮)公式 (@kikumaco) / Twitter
まあ、なんぼでも貼れますがこれくらいで。
今回、話題になっていたのはまずこちら。
映画『マトリックス レザレクションズ』公式サイト|プレミア配信中!4.20ブルーレイ&DVDリリース
やはりサイバーパンクの部屋といえば、この作品に触れないわけにはいかない。企画の際にみんなでサングラスをかけるのも(ミラーシェード以来のサイバーパンクにおける伝統であるとはいえ)そもそも『マトリックス』の影響ですし。
でも、極私的には『レザレクションズ』についてはコメントする気にならないんですよねー。ウォシャウスキー姉妹のトランスに伴うジェンダー的な多視点という見どころがあるくらいで、活劇的な魅力は旧シリーズより低いし、管理者たちが人間の位相に降りたせいでレジスタンス的な物語の説得力も失せたし。世界の建付けが旧シリーズから変化していないのは仕方ないとしても、縮小再生産があまりに露骨で・・・。
まあ、愚痴しか出ないからやめときます。
むしろここで取り上げたいのは、菊池誠さんと巽孝之さんが触れていた、すっかり「訳されない作家」となってしまったウィリアム・ギブスンの動静です。
このブログをご覧の方には説明不要であるサイバーパンクの創始者にして伝道師。ギブスンが書く作品こそがサイバーパンクである、という謂われ方もするように、幾分は作風の揺らぎを経たにせよ、いまだギブスンはサイバーパンクを書き続けています。しかし、日本では既に過去の作家扱いなのか、ギブスンの新作はすっかり訳されなくなってしまいました。そのため、三部作紹介が途中で止まってしまったのが〈ブルー・アント〉三部作です。
すみませんが、酷評します。
〈ブルー・アント〉三部作は、ギブスンがサイバーパンクな普通小説へと舵を切ったシリーズです。以下に山形浩生さんのレビューを貼っておきますが、極私的な評価としてはだいたい同じ感じ。サイバーパンクという伝統芸能の枠組みを守りつつ、散発的な物語内にギブスンがかっこいいと感じた表象や意匠をばらまく。1990年代の日本を彷彿とさせるアイコンが随所に出てくるのは懐古的で面白いけど、内輪ノリの域を出ていないと感じるのは私だけでしょうか。とはいえ、これが『ニューロマンサー』以来貫かれているギブスンのスタイルですから、あとは好みの問題なのですが。cruel.hatenablog.com
で、ギブスンがSFへと回帰したのが〈ジャックポット〉三部作です。
Jackpot #3 is simply titled Jackpot. Getting started soon (gulp). https://t.co/5os1UVbD5u
— William Gibson (@GreatDismal) 2020年7月29日
Peripheryも Agency も読みました。一言でいえばサイバーパンク時間SF。飛び交うアイコンや表象、外連味たっぷりのセリフ回しや新語の乱発はいつものギブスン。Jackpotなる災害が起きて世界経済が崩壊していますが、Agencyの時点ではまだJackpotについて真相は明かされていません。量子コンピューターを介して時間線が過去へと未来へと錯綜し、ユートピアとディストピアが混濁されていきますが、いつもの散発的な構成の影響でプロットの統制が取れていません。ここまでくると、テンプレートの組み合わせとなったギブスンの芸を諦観して受け止めるしかないという感じです。
Jackpotも出版されたら読みますが、どこまで小説としての完成度が上がるのか。テンプレートの順列組み合わせでも面白い作品は作れるんだから、面白くなることを祈って待つしかないですね。