otomeguの定点観測所(再開)

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映画『LAMB』感想

 毎度毎度更新に間が空いて申し訳ないです。今回のレビューは、先週公開された『LAMB』についてのものです。ネタバレも含みますのでご注意ください。

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映画『LAMB/ラム』オフィシャルサイト

映画『LAMB/ラム』公式|大ヒット上映中 (@LAMBMOVIE_JP) / Twitter

 まず、この映画を正しくジャンル分けしましょう。これはファンタジーでもありスリラーでもありサスペンスでもありホラーであり怪奇幻想でもあります。しかし、この映画の核を一言で正しく表すなら、21世紀を舞台にした極めてオーソドックスな「妖精譚」にして「メルヒェン」です。日常と異界が地続きとなった混じり気なしの妖精譚を美しく織り上げた、屹立したオリジナリティを有する作品です。

 アイスランドの人里離れた牧場が舞台。冒頭、家畜の羊が妖精の仔を宿すシーンから始まります。産み落とされた羊の仔に、羊飼いの夫婦はかつて亡くした娘の像を重ね合わせ、「アダ」と名付けて育て始めます。本来は自分たちのものではない妖を囲うことで演じられる作り物の幸福と充足。静謐な日常の中に時折紛れ込む不安や不穏さ。特に妻マリアの宿した静かな狂気が特筆です。

 最後、羊飼い夫婦の偽りの幸福は厳しい制裁を受け、終わりを告げます。本来、メルヒェンは残酷さを伴ったものであり、人間が踏み越えてはならない異界との境界が存在するはず。極私的には極めて真っ当な結末だと思います。