otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2022極私的回顧その1 ライトノベル(文庫)

 それでは、2022年度の極私的回顧、まずはライトノベルから。例年通り、文庫とノベルズ・単行本に分けてランキングを作っています。そして、いつもの通り、テキスト作成に際して『このラノ』およびamazonはじめ各種レビューを参照しております。

 

2021極私的回顧その7 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)

2020極私的回顧その7 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)

2019極私的回顧その7 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)

2018極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)

2017年極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)

2016極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)

 

【マイベスト5】

1、ミモザの告白

 心と体の性別不一致をカミングアウトし、カースト上位の男子から一転、女子として生きることを宣言した幼馴染の彼女と、主人公が繰り広げるラブコメ(??)であり、変容していく人間関係を描いた青春小説です。女装男子というアイコンにとどまることなく、カミングアウトに伴う誤解や差別、性自認とそれにまつわる葛藤などに鋭く切り込んだ傑作です。2022年、『夏へのトンネル、さよならの出口』が映画化された八目迷の最新作を、本年度のベストワンとします。

 

2、竜殺しのブリュンヒルド

 今年のライトノベル・ファンタジーにおいてはこの作品がベストでしょう。英雄の娘が、愛した竜の仇を執念深く冷徹に追い求める復讐劇です。主人公にとって人類は同族ではなく、ときにえげつなく人を利用して踏みつけにします。自分は竜であると自認しながら徐々に人間らしく変化していく主人公の道行を清濁併せて描き切っています。

 

3、サマータイムアイスバーグ

 ジュブナイルとしては王道である、夏のボーイ・ミーツ・ガール。少年少女の不器用さ・瑞々しさなどを描いた類型的な作品ではありますが、読者に訴えかける切なさや説得力があって、作者の物語る膂力は高いものだと思います。荒削りですが、今後の期待値を込めてこの位置に置きます。

 

4、いのちの食べ方

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Eve - OFFICIAL SITE

 Eveの楽曲を十文字青がノベライズ。小説単体としての完成度が高い、ほの暗い青春を扱った異能バトルものです。人外が日常を侵食するMVの世界観をベースに作られていますが、楽曲を離れ、テーマ性が小説独自に掘り下げられています。人外や世界にまつわる謎解きを楽しみながら読みましょう。

 

5、ソレオレノ

 イスラム教的世界で展開される昆虫ロボットものという、オリジナリティが光る作品です。何が何でも生き延びようとする主人公の生への執着のすさまじさと、頑固なお姫様の強いカリスマ。売れ線の作品ではないですが、こういうものこそシリーズ化されてほしいです。

 

【とりあえず2022年総括】

 ベスト5に3作品入れましたが、極私的にはガガガ文庫の躍進が目立った1年でした。ライト文芸へと拡張を図りつつも、物語としての強度の高い作品を連発していました。いろいろ悩んだ末、『わたしはあなたの涙になりたい』はベスト5から外しましたが。

 ライトノベルというジャンルの明確な「枠組み」「定義」は存在しません。ライトノベルにはSFやミステリなどのようなジャンルの核が存在せず、運動体として何かを包含するものではありません。ライトノベルとはインターフェイスです。SF、ミステリ、ファンタジー、時代小説、青春小説、恋愛小説という文芸のサブジャンルのみならず、アニメ、コミック、ゲーム、音楽など文芸の周辺に展開されるポップ文化まで含めてつなげる・融合させる働きを有した、文学的な界面なのです。