otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2022極私的回顧その5 ミステリ系エンタテイメント(海外)

 極私的回顧第5弾は海外のエンタテイメント小説です。いつものお断りですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。

2021極私的回顧その11 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開)

2020極私的回顧その11 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開)

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【マイベスト5】

1、われら天より闇を見る

 『このミス』『読みたい』双方で1位になった作品なのでベタですが、ゴールド・ダガー受賞の本作が極私的にも2022の海外ミステリではベストワンです。ミステリとしてだけでなく、ビルドゥングス・ロマンやロード・ノベルとしても高い完成度であり、ヒロインの成長と登場人物たちが不幸からのがれようとあがく姿には人生の悲哀も喜びも感じます。

 

2、名探偵と海の悪魔

 大航海時代を舞台にした歴史小説にして海洋冒険小説仕立ての本作ですが、各所に張り巡らせた仕掛けを緻密に回収し、状況をきっちり反転させてゆく物語の構造は堅牢なミステリです。悪魔の刻印や死者の復活など、古き良き怪奇小説を彷彿とさせる怪奇趣味も堂に入っており、極めて密度の濃い作品です。

 

3、魔王の島

 ノルマンディー沖の孤島に住まうわずか4人の住民。彼らが隠す謎と、多くの島民が命を落とした悲劇の歴史。何重もの謎が巧妙な入れ子構造で構築された心理サスペンスであり、騙しの趣向を楽しむ作品です。しかし、ナチスの人体実験が陰鬱に翳を落とす戦争小説としての通底した流れも同時に感じ取るべき作品でしょう。

 

4、スクイズ・プレー

 ポール・オースターになる前のベンジャミン名義の作品です。原文も確認しましたが、後のオースター作品の特徴になるハードボイルドな物語・文体・登場人物は初期から出来上がっていたことが分かります。『このミス』の評でも触れられていましたが、ファム・ファタール、ワイズクラックなどハードボイルドの定番の要素も使いこなしており、もっと早く訳出されるべきであった作品です。

 

5、レヴィンソン&リンク劇場 突然の奈落

 〈刑事コロンボ〉でおなじみのコンビによる、ツイストのきいた短編集です。極私的にお勧めなのは「ミセス・ケンプが見ていた」。妻を自殺に見せかけて殺すことに成功した犯人のもとに脅迫者から電話が入り、殺人者と脅迫者の攻防の末、意外な切り札で決着がつきます。また、「鳥の巣の百ドル」と「最高の水族館」は成り行きから犯罪に手を染めてしまった人物の顛末を描いた物語で、〈コロンボ〉でも似たような話があったなあと脳内で映像化しながら楽しみました。

 

【とりあえず2022年総括】

 2021年からの豊作状況が引き続いた2022年。英米の新作、非英語圏の紹介、華文ミステリ、クラシックの発掘など、ここ数年の流れが堅調に続いた年であったという印象です。毎年書いていますが、世界各国のミステリを訳出してくださる翻訳者の方々の労に改めて御礼申し上げます。相変わらずコロナに振り回される日常が続き、内外の愚かな為政者による侵略や愚行が跋扈する世の中ですが、文化においては忌憚なく交流できる世界であってほしいです。