続いては国内SFについてまとめていきます。SFにジャンル分けできるものでも、作品によっては近接ジャンルのファンタジー・幻想文学などに配置している場合があります。また、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。
【マイベスト5】
1、青い海の宇宙港
あの名作・『夏のロケット』に連なるロケット小説であり、上質のジュヴナイルです。少年少女をみずみずしく描く川端節は健在で、宇宙を夢見る子供たちのひたむきな姿に強く惹き込まれました。2016年に読んだ内外のSFの中で、個人的にはこの作品がベストワンだと思います。
2、最後にして最初のアイドル
ステープルドンとラブライブを混交した小説というだけで、すでにこの作品にはカルトな魅力があります。稀有壮大な人類史と宇宙史の思弁は小松左京やイアン・ワトスンを彷彿とさせるものであり、これまでの日本SFにはいなかったタイプの作家だと思います。新しい才能が日本SFを攪乱してくれることを期待しつつ、この位置に持ってきてみました。
- 作者: オラフステープルドン,Olaf Stapledon,浜口稔
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ラブライブ! School idol diary 1-9巻セット
- 作者: 公野櫻子
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3、モナドの領域
筒井康隆、健在なり。モナドですがライプニッツ的というよりはスピノザ的な超存在で物語世界を覆い、哲学的・宗教的引用を散種しながら神的存在を形成していく剛腕は知的興奮を呼び起こします。また、筒井流の皮肉とシニシズムを効かせつつ、SF的な大仕掛けで物語を回帰させる構成も圧巻です。筒井流の屹立したオリジナリティ。こんな作品は他の誰にも書けないでしょう。
4、夢みる葦笛
『読みたい』の評通り、現代SFの主要なテーマであるシンギュラリティ、ポストヒューマン、AI、AR、VR、宇宙などがずらりと並ぶ、豪華な短編集です。アイデアや設定の多彩さや美しい異形の風景の数々も素晴らしいですが、何よりも、物語に通底したあたたかなヒューマニズムが心地よいです。
5、カムパネルラ
モチーフは宮沢賢治『銀河鉄道の夜』です。賢治の生きた時代、賢治の作品世界、主人公が生きる小説内の近未来の世界、および読者の生きる現実世界が、間テキスト性を跳躍した仕掛けを用いて巧みに織り上げられています。高い技巧が用いられた言語SFであり、SFとしては山田正紀の久しぶりの良作です。
【とりあえず2016年総括】
若手から中堅、ベテランまで旺盛な作品生産が続き、長編だけでなく短編集やアンソロジー、ショートショーロなども活況でした。文学やライトノベルなどとのジャンル横断的な作品も多く、他ジャンルからの越境も活発。『シン・ゴジラ』『君の名は』など映像作品、およびノベライズも元気で、『ウルトラマンF』などのコラボ企画も魅力的でした。 思弁的実在論の影響がようやく出始めて批評も動き出しており、資料的価値の高いノンフィクションも続々刊行されています。表面的にはいうことなしの状態です。
ウルトラマンF (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE)
- 作者: 小林泰三,後藤正行(円谷プロダクション)
- 出版社/メーカー: 早川書房
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しかし、本当にこれでいいのでしょうか? 皆さん、納得していますか? 文化運動体としての日本SFが停滞期に入り、刺激的な作品を生み出すことのなかった1年とはいえませんか? 10年代に入り、日本SFが伊藤計劃以後といわれてしばらく経ちますが、彼に続く思弁や神学を有した作家はいまだ見当たらず、日本SFのモードが切り替わりそうな様子はありません。いまだに続く「伊藤計劃以後」という形容を、そろそろ終わりにしませんか。劣化版の再生産の繰り返しにはもう飽きました。
ちょうど10年前、2007年に伊藤計劃と円城塔が登場し、日本SFに新たなモードを打ち立てました。文化運動体としてはそろそろ次の波が来てもいい頃です。2017年に新たな天才が登場し、日本SFを次なるモードに導いてくれると最高なんですが。でも、こればかりは後から振り返ってみないと分かりませんからねえ。