2022極私的回顧その8 歴史・時代(書籍)
文庫に続いて、歴史小説・時代小説の書籍についてのまとめです。いつものお断りですが、テキスト作成の際にamazonほか各種レビューを参照しています。
2021極私的回顧その14 歴史・時代(書籍) - otomeguの定点観測所(再開)
2020極私的回顧その14 歴史・時代(書籍) - otomeguの定点観測所(再開)
2019極私的回顧その14 歴史・時代(書籍) - otomeguの定点観測所(再開)
2018極私的回顧その8 歴史・時代(書籍) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その8 歴史・時代(書籍) - otomeguの定点観測所(再開)
2016年極私的回顧その8 歴史・時代(書籍) - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、女人入眼
第167回直木賞候補作なのでベタですが、2022年に読んだ歴史小説の中ではこれがベストでした。源頼朝と北条政子の娘、大姫を物語の軸として、昨年、大河ドラマでも話題になった、鎌倉時代の幕府と調停を巡る駆け引きの中で、逞しく生きていく女性たちの物語。ゆるやかな京都と沸き立つような鎌倉との対比、権謀うず巻く血も涙もない時代の描写、多数の登場人物が細密に書き込まれ、恐るべき奥行きを有しています。直木賞の選評では歴史の知識がないと理解できないと否定的な見解もありましたが、勉強しながら読むんだよ、こういう傑作は。
2、鬼女
会津藩を舞台に、江戸の町医者から武家に嫁いだ主人公・利代。息子を一人前の会津節に育てるべく奮闘します。武家と町人の違いにも苦しみながら息子を育て上げますが、最愛の息子は幕末の動乱において白虎隊に入り、そして戦死します。息子の死に対する利代の振舞いには賛否があるかもしれませんが、私は敢えて情を殺して「鬼女」として振舞ったと解釈したいです。
3、戴天
千葉ともこのデビュー2作目は、前作と同じ中国・唐の玄宗皇帝の時代が舞台です。不正が横行し、楊貴妃が怪しげな翳を落とし、皇帝から民の心が離れて急速に唐が傾いていく中、不正を正そうとする者たちと権力を意のままにせんとする者たちの思惑が絡み合い、善悪という二項では割り切れない重厚な謀略の絵巻が展開されます。国家にとって最善とは何かという、現代の政治にも通じるテーマが読者に突きつけられる佳作です。
4、幸村を討て
文庫では1位にあげた今村翔吾の直木賞受賞第1作になります。豊臣と徳川の最後の戦いである大坂の陣を舞台に、群像劇とミステリ的要素を折り重ねたジェットコースターノベル。様々な襞を有する作品ですが、ミステリファンとしてはやはり「幸村は誰か?」という謎解きの妙をあげたいです。多視点から構成されることで大坂の陣の真相が立体的に浮かび上がる様は、脂の乗り切った作者の際立った力を示しています。極私的な好みの問題で4位に置きましたが、完成度においては2022年度の最高作品です。
5、この空のずっとずっと向こう
この作品も鳴海風ですね。明治4年、岩倉使節団に同行した日本初の女子留学生の1人・吉益亮子をモデルにした物語。当時の歴史模様をジュブナイルとして咀嚼してうまく構成しています。主人公・そらの活き活きとした描写も魅力で、若い世代へのメッセージ性が感じられる作品です。
【2022年とりあえず総括】
2021年に引き続き、作柄は豊作でした。余計な政治性を挿入することなく好みの作品を並べたらこんな感じのラインナップになりました。『鎌倉殿』が男性視点に偏った構成で不満だったので、やはり女性視点でしっかり歴史を紡いでいくことの重要性を再確認したい。極私的には今村翔吾と鳴海風の当たり年でした。