otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2022極私的回顧その4 本格ミステリ(国内)

 極私的回顧第4弾は国内の本格ミステリです。いつものお断りですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。また、本格ではないと判断した作品は他の項に回しておりますので、悪しからずご了承ください。

2021極私的回顧その10 本格ミステリ(国内) - otomeguの定点観測所(再開)

2020極私的回顧その10 本格ミステリ(国内) - otomeguの定点観測所(再開)

2019極私的回顧その10 本格ミステリ(国内) - otomeguの定点観測所(再開)

2018極私的回顧その4 本格ミステリ(国内) - otomeguの定点観測所(再開)

2017年極私的回顧その4 本格ミステリ(国内) - otomeguの定点観測所(再開)

2016極私的回顧その4 本格ミステリ(国内) - otomeguの定点観測所(再開)

 

【マイベスト5】

1、名探偵のいけにえー人民教会殺人事件ー

 ガイアナにおける宗教団体の集団自殺事件をモデルとしている本作。

人民寺院 - Wikipedia

米国史上最多の死者を出したカルト、ジョーンズタウンの貴重な写真

Q042 Transcript, by Fielding M. McGehee III – Alternative Considerations of Jonestown & Peoples Temple

 これまでの白井作品にみられるような残虐な描写や特殊設定はありませんが、カルト教団という特殊世界を生かし、カルトの内外で密室殺人に対する受け止め方が異なる点を利用した多視点及び多重トリック・解決となっているミステリです。事件の全体像が刻々と移り変わる中、最後にタイトルの意味も含めてきちんと収斂する緻密さと技術的な完成度が素晴らしい。美しい本格であるこの作品を2022のベストワンとします。

 

2、ダミー・プロット:山沢晴雄セレクション

 幻の本格作家と呼ばれた山沢晴雄。これまで長編は同人で発表されたのみでしたが、2022年、第2長編が刊行と相成りました。不勉強ながら山沢の長編は初めて読みましたが、中短編同様に緻密なプロットで構成されており、そして中短編ではなしえないアクロバティックな大仕掛けも堂に入っており、完成度の高い逸品です。

 

3、録音された誘拐

 大野糺・山口美々香コンビの第2弾。表題通り音を手掛かりに解決へと至るミステリで、出前館ネタの現代風の誘拐事件をしっかり作り込んだ本格として仕上げています。探偵事務所の3人のキャラクターも面白く、ラストのドタバタもいいスパイスとなっていて、読後感は爽やかです。

 

4、春ゆきてレトロチカ

 100年に渡る事件を描いた、実写ベースの本格ミステリゲームです。過去の事件と現在の事件、さらに作中作の小説が複雑に絡み合っており、プレイヤーは各所から入手した手掛かりをパネルにあてはめながら推理を組み立てていきます。実写パートのドラマも十分見ごたえがありますし、本格としての完成度も十分。《新青年》をはじめとする本格ミステリのトピックが随所に登場するのもミステリファンには嬉しい限りです。

 

5、西村京太郎の推理世界

 2022年度の評論枠。作品数が膨大であるため、西村作品をすべて読んでいるわけでは到底ありませんが、極私的にはトラベルミステリではなく社会派ミステリとしての西村の顔をとりたいです。ベタですが、1作あげるとすればやはり謀略戦と戦争の虚無感を描いた『D機関』ですね。

 

【2022年とりあえず総括】

 2021年から続く豊饒な作柄が2022年も維持され、様々な趣向の本格を楽しむことができた1年でした。特殊設定ミステリの波は少し落ち着いて、設定や状況やプロットを特殊化・先鋭化する作品が多かった気がします。新型コロナを扱った作品も増えてきましたが、ベスト5に入れるほどの作品はなかった感じです。復古の動きが続く新本格の系譜としては、極私的には4位においた『レトロチカ』を推したいです。