otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2022極私的回顧その2 ライトノベル(単行本・ノベルズ)

 年末から多忙が続き、前回の更新から大きく間が空いてしまいました。極私的回顧、何とか再開します。消滅寸前の場末ブログですが、忘れずにいてくださると幸いです。

2021極私的回顧その8 ライトノベル(単行本・ノベルズ・ノベライズ・リプレイなど) - otomeguの定点観測所(再開)

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【マイベスト5】

1、忘却聖女

 スラム出身の聖女だった主人公が、ある日、自身の存在を全て忘れ去られ、冒涜者として追い出される。少女が自身を取り戻すために戦うファンタジー。のっけからハードな展開で読者を引き込んでいきますが、主人公マリヴェルの瑞々しくも非人間的なほどに折れないメンタルが魅力的。最新刊では先代聖女が絡む「忘却」の謎が判明しており、さらに心が抉られていく主人公たちが幸せな結末を迎えてほしいと切に願います。

 

2、サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと 

 極度のコミュ障の主人公が天才魔女として「七賢人」の一人に選ばれ、往時の護衛という難題を背負わされて学園に放り込まれる、ライトノベル・ファンタジー。学園もの、ファンタジー、謎解きなどの要素が適度にミックスされ、シリアスとコミカルのバランスも良く肩肘張らずに読める佳作です。対人恐怖症のくせに、好きなことになると饒舌になり、調子にも乗りやすい主人公モニカのポンコツぶりがなかなかおいしい。

 

3、勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録

 勇者とは人々に待望される英雄ではなく、刑罰に処された犯罪者たちの呼称です。人類の生息圏を蝕む魔王現象と戦い続けねばならず、戦死しても強制的に蘇生されて戦場に投下される。「不死身の勇者」のシュールな扱いが巧妙です。そして、絶望的な状況にありながらも悲壮感なく戦い続ける、人格破綻者の群れである主人公たちがかっこいい。戦闘シーンの盛り上がりも堂に入った、骨太な作品です。

 

4、月灯館殺人事件

 本来、本格ミステリの項目で評価するべき作品ですが、心情的にミステリのベスト5に入れづらかったので、敢えてここに入れます。本作は、特徴的な密室のミステリであるとともに、自作にもメタ的に言及しつつ本格ミステリの作家と読者を足蹴にするアンチミステリです。個性的と称されるが描写が未熟なだけの登場人物、大仰なミステリ論、どこかで見たような物理トリックの乱打など。使い古された様式美に凝り固まったミステリ作家たちが処刑されていく様は、自身の読書遍歴を切り刻まれるようで鋭利で甘美。読者への嫌がらせのような趣向が各所に凝らされているところもまた甘美。

 

5、機動戦士ガンダム 異世界宇宙世紀 二十四歳職業OL、転生先でキシリアやってます

 キシリアって悪役令嬢だったんだ、というツッコミは置いといて。悪役令嬢もののお約束はきちんと踏襲しているので、一応の構成はできていますが、あちこちに破綻が見られ、ガンダムファンとしては許せないであろう曲解も観られ、実にやりたい放題。ガンダムネタの詰まったギャグ小説として読めばシュールな逸品ですが、往年のガンダムファンには読むに堪えないひどい作品です。誉めてないですが、誉め言葉です。

 

【とりあえず2022年回顧】

 北山作品は別枠として、ファンタジー中心のベスト5になりました。ラブコメや転生ものに食傷気味だったため、オーソドックスに物語を楽しめたものを並べたら、こんな感じになりました。当ブログでは何度も書いていることですが、ライトノベルは「界面=インターフェイス」です。そこに明確な枠組みはなく、結節としていくつものサブジャンルを引っ張ってくる駆動力こそ、ライトノベルが脈々と受け継いできた機能です。「これがライトノベルである」であるという共感覚的な合意は長年曖昧模糊としたままですが、それはこれからも曖昧であり続けることでしょう。