2020極私的回顧その8 ライトノベル(単行本・ノベルズ・ノベライズ・リプレイなど)
文庫のライトノベルに続いて、単行本・ノベルズなどその他のライトノベルについてまとめます。ノベライズやリプレイなども含めているため、例年、版型がカオスになりますが、何卒ご了承ください。なお、いつものお断りですが、テキスト作成に『このラノ』およびamazonほか各種レビューを参照しています。
2019極私的回顧その8 ライトノベル(単行本・ノベルズ・ノベライズ・リプレイなど) - otomeguの定点観測所(再開)
2018極私的回顧その2 ライトノベル(単行本・ノベルズ・ノベライズ・リプレイなど) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その2 ライトノベル(単行本・ノベルズ) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その2 ライトノベル(単行本・ノベルズ) - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、作家逃亡飯
迫りくる〆切という恐怖と戦う作家と、取り立てに追われる編集者。そこから逃げて飯を食いに行ったらどうなるか。・・・というふざけた同人誌をさらにふざけて星海社が商業出版したらこうなりました。〆切を巡る攻防だけでなく、設定の矛盾を指摘してくる警察、異世界取材のノウハウ、出版社に金を払わせて食らう飯、同業者からの原稿のまき上げ方など、やりたい放題。メタでメタメタでフリーダムなユーモア短編群を、2020年度の1位に推します。
2、異修羅
最強といわれる主人公たちが集い、戦ったらどうなるか。最強のキャラが入り乱れる痛快な活劇。チート級のキャラが出てくる作品は数あれど、登場人物のほとんどが最強という発想は恐らくこれまでなかったものでしょう。骨太な戦闘描写、派手な魔術や異能の描写、政治的な策謀が乱れ飛ぶ様などを、キャラクターごとに視点を変えながら巧みに描いています。主人公が不在で先の展開が読めないスリルも面白く、2020年の新人作品では最も力のある小説でしょう。
3、ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~
放蕩の末に国を混乱に陥らせ、革命を起こされ処刑される憂き目にあった主人公の姫・ミーア。彼女が、断頭台にかけられた瞬間、12歳まで時間が巻き戻るというタイムリープものです。過去世を反省して、数年後の危機をにらんで施策を講じたり、有能な人材を取り立てたりと、真摯に国政に励む彼女の姿に、周囲の評価も変わっていきます。しかし、この物語はあくまでコメディ。そうはいってもわがままで世間知らずな姫の言動や行動が騒動を引き起こしながらも、周囲の人々が巻き込まれていつの間にか事件が解決する、ご都合主義でお約束の展開です。でも、そこがいいんです。
4、黒猫館・続 黒猫館
1980年代から90年代にかけてのOVAブームにおいて、アダルトアニメの代表格であったのが〈くりいむレモン〉シリーズ。数々の伝説を有するこのシリーズから、「メイド」「館」のルーツとなる2作が復刊されました。美しいもののみで満たされた耽美な世界は、ポルノゆえに放たれる妖しげな美に溢れており、未だ尽きぬ輝きを放っています。稲葉真弓=倉田悠子であることが判明してから、古書がプレミア価格となっていて手を出しづらかったので、この復刊は嬉しい限り。
興味のある方は、百合小説の草分けであるこちらも是非。ただし、80年代の古き良きレズビアン文化の照射であることを念頭に置いて読んでください。
5、チェンジアクションRPG マージナルヒーローズ リプレイ ヒーロー快進撃!!
TRPG本体は未プレイですが、2020年のリプレイで一番面白かったのがこれです。昭和のヒーローから21世紀のヒーロー、そしてご当地ヒーローまで、様々なヒーローに扮することのできるTRPG。真面目にロールプレイしているのが分かるがゆえに読者としては笑ってしまう、お約束とノリと熱さ。実際のプレイに役立つように各話ごとに工夫と配慮がされた、上質のリプレイです。
【とりあえず2020年回顧】
毎年の総括で同じことを書いていますが、どこまでをライトノベルと定義すればいいのか分からない、境界不明の状況は2020年も健在で、新刊の山との格闘が1年間続いて、そして終わってしまいました。今年はリプレイにも面白い作品があったので、2年ぶりにリプレイをマイベストに組み込むことができました。もはや面白いと感じた作品を手当たり次第に当てはめているだけになっている気もしますが・・・。作品ごとにターゲットとする読者層が異なり、読書のアンテナを展開するのが難しい、カオスで幸福な環境は来年も続いていくのでしょう。
長年の出版不況に感染症拡大が加わり、2020年は書店に直接足を運ぶ機会がめっきり少なくなった1年でした。出版業界の厳しいニュースは今年もいくつか目にしています。しかし、困難な状況下ながらも、ライトノベルに関わる作者・出版社・読者のそれぞれの熱量の高さを実感する1年でもありました。この熱量がある限り、ライトノベルという運動体はまだまだ駆動し拡大していくものと信じます。