otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2020極私的回顧その7 ライトノベル(文庫)

 それでは2020年度の極私的回顧、始めます。スポーツ系のテキストは12月に入ってからになるので、ナンバリングがおかしくなりますが、まずはライトノベルから。例年通り、文庫とノベルズ・単行本に分けてランキングを作っています。そして、いつもの通り、テキスト作成に際して『このラノ』およびamazonはじめ各種レビューを参照しております。

  

このライトノベルがすごい! 2021

このライトノベルがすごい! 2021

  • 発売日: 2020/11/24
  • メディア: 単行本
 

 

2019極私的回顧その7 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)

2018極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)

2017年極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)

2016極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)

 

【マイベスト5+α】

+α 『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった・・・』 

  これまで当ブログでは女性向けレーベルの作品をそういえばほとんどレビューしていませんでしたが、もっと早くコメントしておくべきだった作品ですね。良質のTVアニメも話題になりましたが、そもそも原作は「悪役令嬢もの」というジャンルを切り開いたライトノベル史に残る名作。乙女ゲーム化も発表され、アニメ第2期も控えており、現実をメタ化しながらまだまだ楽しませてくれそうです。

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1、楽園ノイズ 

楽園ノイズ (電撃文庫)

楽園ノイズ (電撃文庫)

 

  杉井光帰還。不器用な歪みを抱えた少年少女が音楽を通じて集い、高め合う、良質のボーイミーツガール&青春グラフィティ。涼やかで爽やかで甘酸っぱい若さを感じる物語、そして軽妙なテンポで進みながらページから音が湧き立つ精妙な文体から、杉井光の確かな進化を感じました。この王道ジュヴナイルを2020年度の1位に推します。

 

2、竜と祭礼 

  

竜と祭礼3 ―神の諸形態― (GA文庫)

竜と祭礼3 ―神の諸形態― (GA文庫)

 
竜と祭礼2 ―伝承する魔女― (GA文庫)

竜と祭礼2 ―伝承する魔女― (GA文庫)

 

  特殊設定ミステリ華やかなりし昨今ですが、ライトノベル民俗学的な渋いミステリが読めるとは。図書館での文献探索とフィールドワークが物語の軸で、堅実なミステリの手法を踏襲しています。また、適度なサプライズを各巻の終盤に配しており、ミステリとしての構成力もあります。ただし、ジャンル・ミステリとしてはアンフェアな部分もあるため、ライトノベルとして評価しました。

 

3、オーバーライト 

  舞台はロンドン、ストリートアートを題材にした青春グラフィティです。現実の対抗文化やアウトサイダー・アートはもっとヤバくてひりつくパンクなイメージですが、ライトノベルとしてポップに加工したらこうなったという感じです。ラノベ中毒者としては楽しめる作品ですが、芸術小説という視点で見ると、作品の軽妙さについて賛否が分かれるかもしれません。

 

4、こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~ 

  ディストピアからの脱出を図る、2人の少女と1台のラジオが紡ぐ百合小説であり、疾走感のある冒険ラノベです。同系統の作品としては『異世界ピクニック』との比較になりますが、ライトノベルとしてのリーダビリティでは『こわれたせかい』が勝り、SFとしての質量をでは『異世界ピクニック』が勝るでしょう。

 

5、むしめづる姫宮さん 

むしめづる姫宮さん (3) (ガガガ文庫)

むしめづる姫宮さん (3) (ガガガ文庫)

 

  虫オタクでコミュ障の主人公とヒロインが、虫の魂にとりつかれた同級生たちの悩みを解決していく物語。一応伝奇ものですが、虫の蘊蓄と緩いペースの物語が独特の癒し感を醸し出しています。最終巻のラストには賛否があるようですが、メインの2人のキャラクターを考えると自然な収斂でしょう。

 

【とりあえず2020年総括】

 今に始まったことではありませんが、2020年は長く続いたシリーズの完結が相次ぎました。中でも〈フォーチュン・クエスト〉はライトノベル最初期から歴史を刻んできた作品であり、30年間執筆をつづけ、独自の世界観と軽妙なノリを維持し続けた深沢美潮さんには深い感謝と敬意を述べたいと思います。 

  

  

  

はたらく魔王さま!21 (電撃文庫)

はたらく魔王さま!21 (電撃文庫)

 

  

  

妹さえいればいい。14 (ガガガ文庫)

妹さえいればいい。14 (ガガガ文庫)

 

  さて、ここからは例年のコピー&ペーストです。手抜きですみません。

 2020年もWEB小説は引き続き活況で、コミカライズやアニメ化のメディアミックスも引き続き活発で、WEBを中心に裾野が引き続き緩やかに拡大していて、ライト文芸はじめジャンルの融解は進んでおり、読者の年齢層も幅広さを増していて、ジャンル内ジャンルでは新しい領域が生み出され、横断的なジャンル把握はもはや不可能であり、旧来のレーベルからも新人賞や新人作品が活発に送り込まれ、膨大な刊行点数をさばき切るのは不可能であり、読者が各自で必死にアンテナを張っている状況が続いていて、ライトノベルというジャンル運動体の熱量は引き続き熱く、アカデミックな批評の動きも続いています。

 そして、引き続きクリエイターのプロ/アマの境が曖昧であり、さらに膨大なキャラクターコンテンツが生産され、ファンとキャラクターのインタラクティブな通行が当たり前となり、声優やVtuberを起用したPVやコラボ宣伝の配信も今や当たり前になりました。

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 そして、さらにコピペが続いてすみませんが、極私的な見解が変わっていないので、そのままで。周辺状況がいかに変化しようと、ライトノベルはあくまで文芸の1ジャンルです。

 ライトノベルインターフェイスすなわち界面です。キャラクター小説という文法をベースに、SF・ファンタジー・ミステリ・戦記・歴史時代・ホラー・青春小説・スポーツなど多様なジャンルとダイナミックに接続し横断し、ギャグまでも含めた多彩な手法を取り込みながら有機的に拡大する表現領域であり運動体、それがライトノベルです。そこに一定の普遍性があるから、ライトノベルはジャンルとしてここまで発展してきました。ライトノベルはキャラクターコンテンツの一つではありますが、あくまでその本質は小説であり文芸です。小説として魅力的で物語る力の強い作品、小説としての本道を踏まえた力ある作品が支持され、淘汰の中で生き残っていくでしょう。 

 視点を変えて、最後に毒を吐いておきます。ライトノベルが文芸として優れているとは思えません。スタージョンの法則よろしく、ライトノベルの90%以上はクズです。例えば、他の文芸ジャンルの評価軸から見ると、今回マイベストに入れた作品の中で、『楽園ノイズ』は青春小説として一定の評価ができますが、『竜と祭礼』はミステリとして、『オーバーライト 』は芸術小説として、『こわれたせかいの むこうがわ』はSFとして、『むしめづる姫宮さん』は伝奇ものとして、優れているとは思えません。ライトノベルを中心に読んでいて他のジャンル小説を摂取していない読者・評者たちが、SF・ファンタジー・ミステリ・伝奇など他のジャンル小説の用語を軽々しく使って感想を述べるのは、実に安易な行為です。ライトノベルで育った作者が過去作の劣化再生産を垂れ流し、粗製乱造を招いている状況も(今に始まったことではありませんが)憂慮されます。

 つまるところ、ライトノベルはポップ文化でありポップノベルであり、その圏域を外れる作品は決して多くありません。しかし、ジャンルの壁を破壊し、他のジャンル小説としても評価できる骨太な作品をもっと読みたい。2020年の回顧はこの欲望を吐露して締めたいと思います。