2022極私的回顧その6 ミステリ系エンタテイメント(国内)
極私的回顧第6弾はミステリ系エンタテイメント(国内)です。いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
2021極私的回顧その12 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
2020極私的回顧その12 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
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2017年極私的回顧その6 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その6 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、同志少女よ、敵を撃て
極私的には2022年度における日本の小説のベストワンです。歴史の題材として取り上げられることの少ない旧ソ連の女性兵士を題材とし、サスペンス・歴史小説・冒険小説など多彩な側面において一級の完成度を誇る、驚異のデビュー作。緻密な考証とプロットの練り上げによって女性視点から見た戦争の姿を浮かび上がらせ、フェミニズム的にも鋭角な切れ込みを見せているのも魅力ですね。
2、プリンシパル
極私的には主人公の存在感において2022年のベストワン。復讐のため、修羅の道をゆくヒロイン・綾女。戦後史の裏側に広がる血塗られた歴史にからめとられながらも勇敢に(??)立ち向かう彼女の姿が魅力的です。人間的な弱さ・脆さを垣間見せながらも必要な非道を臆せず遂行できる意志の強さ。彼女の成長する姿が強い求心力を有する、クライムノベルの傑作です。
3、かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖
明治時代末に実在した「パンの会」。この耽美なサロンで、石川啄木、北原白秋といった実在の人物が推理合戦を繰り広げます。推理合戦の妙もさることながら、最終話を筆頭にミステリとしてもサプライズ込みで堅牢に構築された秀作です。戦争の足音が聞こえる中、芸術の理想を掲げる青年たちが現実と向き合った生き様も見ごたえあり。
4、爆弾
知能的な愉快犯といえばハンニバル・レクターですが、本作の主人公スズキタゴサクも非常に魅力的な知能的愉快犯です。ゆるキャラのように間抜けな見た目の中年のおっさんが、取調室の中で警察をクイズで煙に巻きながら飄々と爆弾テロを実行していく様は不謹慎ですが痛快そのもの。命は平等などというきれいごとは糞くらえで、人生とは悪とは不条理なものであるという真理を読者に突きつける問題作でしょう。
5、図書室のはこぶね
10年ぶりに返却された本が事件を巻き起こしていく青春ミステリ。瑞々しくもビターな学園小説ですが、性同一性障害、ダイバーシティといった要素を巧みに取り入れ、奥深い構成になっています。極私的には物語後半のダンスシーンが白眉。生きていくのは辛いことも多いけど、細やかな出会いが彩りを与えてくれることも多いのです。
【とりあえず2022年総括】
近年まれに見る豊作であった2021年に引き続き、豊饒な作柄が続きました。オールタイムベスト級の作品が乱れ撃たれた2021年には及びませんが、エンタテイメントとして高い強度を有する作品が多く、十分に楽しめた1年でした。現実には、パンデミック、ロシアのウクライナ侵攻、元首相の殺害など、まるでフィクションとリンクするかのような出来事が相次ぎましたが、現実の為政者がフィクションの為政者より愚かであることに改めて嘆息した1年にもなりました。