書けるところでどんどん書いていかないと。続いては国内のエンタテイメント小説のまとめです。いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
【マイベスト5】
1、蜜蜂と遠雷
恩田陸がエンタテイメント作家としての力量をフルに発揮した傑作です。コンクールへの取材、音楽的知識、楽曲の選択などの分厚い背景が堅固に構築されるとともに、恩田陸の冴えわたる描写がページから美しい音楽を溢れさせています。また、コンクールに参加する少年少女の心情が細やかに描写され、すがすがしい読後感を残すのはいつもの鮮やかな恩田節。やはり恩田陸は素晴らしい。
【1/22追記】
直木賞受賞、おめでとうございます。
(ひと)恩田陸さん 「蜜蜂と遠雷」で直木賞に決まった:朝日新聞デジタル
2、リボルバー・リリー
エンタテイメントとしての純粋な面白さ、および物語る力において特筆した力を持っている作品です。派手なアクション、主人公たちの孤独な戦い、謀略、大正時代の歴史模様など読者を惹きつける要素がてんこ盛りで、サスペンス小説であり冒険小説として強固な骨格を有する傑作です。
3、クロコダイル路地
フランス革命の時代および同時代のイギリスを舞台に、歴史の実像や人間の醜さ・愚かさなどに容赦なく踏み込んだ、一大歴史絵巻です。詩的にして残虐にして耽美にして流麗にしてシンプルな作者の美しい文章はいまだ健在。複雑な歴史模様と多視点に猟奇的趣味を絡め合わせたタペストリーを巧妙に織り上げるのは、皆川博子だからこそできる業でしょう。
4、暗幕のゲルニカ
ミステリやサスペンスとしては凡作。しかし、ピカソのゲルニカを題材に読者の想像力を揺さぶる芸術小説であり、作者の反戦のメッセージや歴史性を作中に取り込み複数の襞を有する小説として、原田マハの持ち味がしっかりと発揮された良作です。欧州が移民問題や民族主義に揺れ、寛容さを失いつつある現代だからこそ、この作品を世に問う意味があるといえるでしょう。
5、希望荘
杉村三郎シリーズ第4弾です。前作で杉村は家族を失い、1人となっておんぼろの探偵事務所を開業しました。人生が思うようにならなくとも頑張って仕事をして、理不尽な現実に向き合わなければならない男の姿は、仕事に追われるサラリーマンこそ感情移入できるものです。事件の裏にある様々な悲哀や残酷な真実は、疲れている今の日本社会の鑑写しかもしれません。
【2016年とりあえず総括】
国内のエンタテイメント小説の作柄はまずまず豊作でした。でも、ミステリ性の薄いラインナップになってしまいました。私も年をとったせいか、エッジの鋭い小説ではなく、現実の社会問題や人生の悲哀を描いた小説に反応するようになってきているので、作品の評価軸を固定するのがなかなか難しかったです。昔、年齢を経ると小説の好みが変わってくるということを言われたことがありますが、自分でそれを実感することになるとは。『希望荘』をミステリではなくサラリーマン小説として読んしまう時点で、仕事に疲れている自分が分かってしまうのが嫌ですね。
とはいえ、やっぱりエンタテイメントは肩に力を入れつつ肩の力を抜いて楽しめてナンボです。2017年はできれば娯楽作目白押しの年となってほしいものです。