otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2020極私的回顧その13 歴史・時代(文庫)

 極私的回顧第13弾は歴史・時代小説の文庫です。毎度のお断りですが、テキスト作成のため各種ランキングおよびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。

 2019極私的回顧その13 歴史・時代(文庫) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

2018極私的回顧その7 歴史・時代(文庫) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

2017年極私的回顧その7 歴史・時代(文庫) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

2016年極私的回顧その7 歴史・時代(文庫) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

 

【マイベスト5】

1、羽州ぼろ鳶組 大鳳

襲大鳳(下)――羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)

襲大鳳(下)――羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)

 
襲大鳳(上) 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)

襲大鳳(上) 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)

  • 作者:今村翔吾
  • 発売日: 2020/08/26
  • メディア: 文庫
 

  火事と喧嘩は江戸の華といいますが、これは伝説の火消しとして象徴となった男の物語です。火消しであるがゆえに曲折の人生を歩みながらも、捨てられなかった羽織と矜持。かつての仲間たちが集い、そして受け継がれていく情熱。悪に敢然と立ち向かう粋な男たちが暴れまくり、ハイテンションで第一部の幕を下ろしたこのシリーズを、2020年のベストワンに推します。

 

2、三河雑兵心得 

三河雑兵心得 : 4 弓組寄騎仁義 (双葉文庫)
 
三河雑兵心得 : 1 足軽仁義 (双葉文庫)

三河雑兵心得 : 1 足軽仁義 (双葉文庫)

 
三河雑兵心得 : 2 旗指足軽仁義 (双葉文庫)
 
三河雑兵心得 : 3 足軽小頭仁義 (双葉文庫)
 

  家康のもとで足軽・雑兵として活躍していた茂兵衛の出世物語です。三河一向一揆に始まり、姉川の戦い浜松城築城、三方ヶ原の戦い、そして長篠の戦いと、史実を巧みに織り交ぜつつ、当時の戦や日常などの様子がきめ細かく描写されています。だんだん主人公の地位が上がってきて、雑兵だったころと違って気を配る要素が増えてきたためか話のテンポが遅くなってきていますが、一般職から管理職へという現代の変化と照らして納得してしまうのは、おっさんくさい読み方なのかもしれませんね。

 

3、レイモンさん 函館ソーセージマイスター 

  チェコ生まれのソーセージ職人・カール・レイモンの物語です。思い切って駆け落ちする勇気や仕事にかける気概、職人としての矜持など強い心根を持つ一方、頑固で不器用で波乱万丈の人生を歩むレイモンの人物像が憎めなくていいです。内助の功で夫をしっかり支えつつコントロールする奥さんもなかなかのもの。史実が上手く肉付けされた歴史小説として、ソーセージ好きの方は押さえておくべき一品です。

ドイツ製法のソーセージとハム通販|函館カール・レイモン (raymon.co.jp)

カール・ワイデル・レイモン - Wikipedia

 

4、お勝手のあん 

  2巻目を当ブログでレビュー済みなので、再掲します。

 オビに『江戸版「赤毛のアン」』と書かれている通り、品川の女中見習いおやすを主人公にした、時代小説版の『赤毛のアン』です。『赤毛のアン』第2作は『アンの青春』ですが、この本はシリーズ第2巻で文字通りの本歌取りとなっており、主人公・小安の青春真っ只中の物語です。少しづつ仕事を任されるようになって幅が増えて成長してきたり、お姫様と出会ってドキドキしたり、親友の縁談にドキドキしたり。いろいろ迷惑をかけるおてんば娘でだけど一途で、周囲の人たちに愛されながら成長していく姿はまさに本家『赤毛のアン』を彷彿とさせますね。今後のおやすの成長も楽しみです。

 あくまで本歌取りですが、単体で読んでも十分に面白い小説です。時代小説・歴史小説ファンのみならず、恋愛小説や青春小説など他のジャンル小説の読み手、海外文学の読み手、そして何より『赤毛のアン』が好きな方にぜひ手に取ってほしい作品です。

 『あんの青春 春を待つころ お勝手のあん』 - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

 

5、按針 

按針 (ハヤカワ時代ミステリ文庫)

按針 (ハヤカワ時代ミステリ文庫)

 

  表題通り、ウィリアム・アダムズ、三浦按針の物語です。日本と英国の文化の違い、日本の妻と英国に残してきた妻に挟まれた心情の機微、二つの文化の相克など、様々な葛藤の中で悩みながらも進んでいく主人公。彼の視点から描かれた武士道や関ヶ原の戦いは、世界から見た当時の日本像を分かりやすく伝えてくれます。細部の描写も丁寧に仕上げられている、歴史小説の佳作です。

ウィリアム・アダムス - Wikipedia

 

【とりあえず2020年総括】

 歴史・時代小説の総括では自分のその年の仕事状況をおさらいすることになる・・・といつも書いている気がしますが、2020年は勤め人として感情移入しつつ読んだ本が上位に並びました。本来、時代小説の文庫はストレス解消のために読んでいるはずなんですが、コロナの影響で仕事で紆余曲折あったせいか、仕事の悩みがそのままラインナップに出てしまいました。私事ばかりですみません。

 でも、今も昔も、仕事で悩みや苦労、組織の中の紆余曲折、職人的な気概やこだわりなど、仕事のあり方や人間模様は変わらないと、改めて思います。2021年はもっと派手なエンタメが並べられるような、仕事の状況や安定してストレスの少ない状態になってほしいですが、まだまだ難しそうですね。