それでは、2021年度の極私的回顧、始めます。この後、スポーツ系のテキストも書いていくのでナンバリングがおかしくなりますが、まずはライトノベルから。例年通り、文庫とノベルズ・単行本に分けてランキングを作っています。そして、いつもの通り、テキスト作成に際して『このラノ』およびamazonはじめ各種レビューを参照しております。
2020極私的回顧その7 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2019極私的回顧その7 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2018極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2017年極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
2016極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)
【マイベスト5】
1、魔女と猟犬
重厚な背景を持った魅力的な登場人物を容赦なく退場させ、絶望的なラストシーンでぐいぐいとひきつける、骨太な筆力のダーク・ファンタジー。陰謀劇やバトルシーンの描写も堂に入っており、読者も登場人物も容赦なく追い込んでいく、カミツキレイニーの新作を、本年度の1位とします。
2、忘れえぬ魔女の物語
単なる百合物件にあらず、昔ながらのSFの枠組みを用いたタイムリープものでありながら、ロジックとアイデアをうまく処理してシリーズものに仕立て上げた、その構成力が、まず新人離れしています。そして時間移動能力と記憶能力がもたらす孤独感と切なさが主人公の百合カップルの絆に意味と切なさを持たせており、揺れ動く甘酸っぱい思いの描写も見事。この二人は何とかハッピーエンドを迎えてほしいものですが・・・。
3、詩剣女侠
剣を持って舞いながら岩に詩を刻み、その出来を競う「剣筆」。この特殊競技が流れ行する世界を描いた、時代小説にして武侠小説。主人公の少女の健気な性格描写やポップな文体には、歴史小説・時代小説の読者は違和感を覚えるかもしれません。通常の時代小説であれば許容しづらい変化球ですが、ライトノベルの枠内であれば収まります。
4、剣と魔法の税金対策
無駄な出費を削って控除を行い、納税額を適正な水準へと持っていく。そして、国債を発行して投資を行い、国の経済を活性化させる。長いこと会社勤めをして予算をいじり、自分のお金の出し入れをして、この国の政治経済を眺めてきた向きには、当たり前の光景ですが、ライトノベル・ファンタジーで行われると、なかなか新鮮な趣があります。現実はこんなにうまくいかないよと思いながらも、国や領民のことを真剣に考える登場人物たちを見ていると、バラマキしか考えないこの国の政治家のレベルにいつもの暗澹たる思いを抱いてしまいます・・・。
5、雪の名前はカレンシリーズ
ゼロ年代にムーブメントとなった、懐かしいセカイ系。世界や宇宙などの大きな物語の枠組みではなく、少年少女の切ない心情や関係性に焦点を当てた物語群。2020年代にリニューアルされ、作品化されました。セカイ系独特の痛さ・切なさをうまく残しながら、現在的な新たな血肉も加わって、バランスよく構成されています。懐古的な価値にとどまらない佳作だと思います。
【とりあえず2021年総括】
本来であればマイベスト5に入れるべきところですが、2021年は〈プロペラオペラ〉〈月とライカと吸血姫〉と、極私的に好んで追ってきたシリーズが完結しました。下手に蛇足を作って引き延ばすことなく、適度なボリュームに収まりましたね。
ジャンルの融解と多様化、コンテンツの双方向化、メディアミックス、界面としてのライトノベル、引き続き疾駆する運動体としてのライトノベル、文藝として力のある作品を・・・なんてことは過去の回顧で何度も書いてコピペしてきましたが、このあたりの様相は本質的には変わることがないので、本年度は中略します。
日常系とファンタジーとがジャンルの主軸を行ったり来たりするというのがライトノベルのいつもの流れですが、2021年は、『このラノ』1位となった『チラムネ』を筆頭に、ラブコメで良質の作品群が供給され、ジャンル運動体の軸となった1年でした。
青春の切なさ・甘酸っぱさ・ビターさを照れなく直球で描くことができる、というのがライトノベル・ラブコメの優れた点です。文学=文藝的ないしジャンル小説的な技巧や約束事に虚飾されないからこそ表現しうるシンプルさ。物語として骨太ではないとか、青臭い・ガキ臭いとかいってしまえばそれまでですが、極私的には、若者たちの生硬さを受容する読者としての許容量と感性を持ち続けていたいと思います。