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シン・ゴジラ短評~庵野も丸くなってしまったもんだ~

 かなり遅くなりましたが、やっと観る機会を作れたので観てきました。ここから少し、しばらくおろそかにしていた書評や映像作品の感想を並べていきたいと思います。本来、このブログはそうした評論が中心のはずですよね。すみません。

 シン・ゴジラの感想はシンプルです。ゴジラ映画としては力作・傑作の類。庵野秀明の作品としては凡作。

  WEB上の評価を見るとこの作品に対しては肯定的な評価が多いようです。大作・傑作という声も聞く気がしますね。確かに面白かったです。ゴジラ初作へのオマージュとリスペクトをしっかり行いつつ、庵野秀明なりの演出とリアリズムを突きつめて、ぎりぎりのラインで鋭角な作品に仕上げてきました。

 ヤシマ作戦など『エヴァンゲリオン』で展開された各種作戦を彷彿とさせる作戦・戦術の構成、骨太な学者・役人・サラリーマンたちが力を結集してゴジラに立ち向かう日本らしいマンパワーの集積、誰もが最善を尽くしながらも対応が後手後手に回る政治と行政のしがらみがんじがらめの描写、アニメの演出を彷彿とさせるカメラワークとカットワークなどなど、庵野秀明ならではのユニークな視点が作品全体に豊饒にばらまかれています。そして、キャストもCGも関係先の協力も十分に資金と時間をかけて練り上げた配置になっていて、関係者の緊密な協力と努力が背後に濃厚に感じられる労作でもありました。歴代のゴジラ作品でも間違いなく上位に位置付けなければいけない作品でしょう。

 また、ラストで日本のマンパワーが結集されてゴジラが倒されるシーンは、ゴジラ初作への強い敬意の表れであり、日本という国がまだまだ捨てたものではないというメッセージであるとともに、庵野秀明の作家性が成熟した証でもあるのでしょう。すがすがしい感動が残る引きだったと思います。

 と、ここまではほめちぎっておりますが、問題はここから。庵野秀明がずいぶんおとなしくなったなーというのが、この映画が凡作たる所以であります。古くは『ナディア』に始まり、壮大な失敗作に終わったTV版『エヴァ』以降、庵野作品の魅力にして持ち味とは、良くも悪くも視聴者の予想の斜め上または斜め下をいく、演出であり失敗でありアクシデントでありサプライズでありちゃぶ台返しだったはずです。そして、子供っぽい強烈な自己肯定と自己憐憫こそ、これまた良くも悪くも庵野秀明の作家性における魅力にして欠点だったはずです。今回の『シン・ゴジラ』では、これらのビーンボールが一切投げられることはありませんでした。庵野が自重したのか、制作サイドが引き留めたのかは知りませんが、庵野秀明が普通に優れた映画を撮ってどうしようというのでしょう。

 どうせこれまで散々、東京も日本も世界も破壊してきたんですから。日本壊滅や人類絶滅とまではいいませんが、せめて凍結されたゴジラが再び動き出して人間の無力さがあざ笑われるか、東京に熱核弾頭が投下されて東京が焦土と化すくらいのことはやってほしかった気がします。常識や良識がしつこいですが良くも悪くも邪魔になっていますね。庵野も年をとって人間が丸くなったのかもしれません。あるいは、私自身がいつまでも子供っぽさを引きずっているだけなのかもしれませんが。

 

【参考・関連リンク】

映画『シン・ゴジラ』公式サイト

シン・ゴジラに出てくる日本人はファンタジー(古谷有希子) - 個人 - Yahoo!ニュース

島本和彦『シン・ゴジラ』本がコミケを席巻! 完売後に本人直撃「とんでもないことになった」 - KAI-YOU.net

『シン・ゴジラ』に覚えた“違和感”の正体〜繰り返し発露する日本人の「儚い願望」 野暮は承知であえて言う | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]

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