昨日まで、福島で開催された日本SF大会「F-CON」に参加してきました。ぼちぼちですが、聴講した企画の感想などをレポートにまとめていきます。今年はすっかり更新が滞っている場末ブログですが、飽かずお付き合いいただければ幸いです。
まずは、新型コロナの影響で開催が伸びに延びながらそれでも開催にこぎつけた関係者の皆様に御礼申し上げます。大きなご苦労があったと思いますが、非常に楽しい大会でした。そして、大会中、お相手をして下さった方々、どうもありがとうございました。
第59回日本SF大会『F-CON』 | F-CON(エフコン) 2021福島郡山市
第59回日本SF大会 F-CON【ついに開催を迎えます!】 (@SF_FCON) / Twitter
さて、それでは大会レポートをあげていきます。WEB上でも既報の通りですが、SF大会で表彰される2つの文学賞について、まずはコメントしていきたいと思います。
【星雲賞】
2021年度の星雲賞は以下のようなラインナップになりました。
第53回星雲賞発表 日本長編部門は藤井太洋『マン・カインド』牧野圭祐『月とライカと吸血姫』 海外長編はアンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』 | VG+ (バゴプラ)
日本長編部門(小説)『月とライカと吸血姫』
『マン・カインド』
『月とライカと吸血姫』はこのサイトでも繰り返し取り上げている作品であり、私も高く評価してきたライトノベルシリーズですが、まさか星雲賞までいくとは。よくぞとったという感じですね。『マン・カインド』はなんと単行本化する前のフライング受賞(笑)。星雲賞をとってもおかしくない作品ですが、このタイミングになるとは。
極私的回顧で2021年の日本SFにも長編の傑作がなかったと書きましたが、この星雲賞の結果といい、ベストSFで国内作品の上位がアンソロジーばかりになってしまったことといい、ジャンルSF内から骨太なSF長編が顕れていないことに対してSF界はもっと危機感を持つべきです。いくら作家数・作品数が増えても、技法や概念の縮小再生産及び、他の文学ジャンルと比較してエンタテイメント的・文学的強度が低い状態が続く限り、それはSFの夏の時代とも黄金時代ともいいません。ただの内輪ノリというんです。
2021極私的回顧その27 SF(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
日本短編部門(小説)「SF作家の倒し方」小川哲
意外なことに、小川哲はこれが星雲賞初受賞。受賞コメントでご本人が「この作品で受賞するとは・・・」とおっしゃっていましたが、過去には筒井康隆が「日本以外全部沈没」で『日本沈没』と同時受賞した例もありますし、ジョークを奉るのも星雲賞の機能の1つであるととらえればいいでしょう。
海外短編部門(小説)「星間集団意識体の婚活」ジェイムズ・アラン・ガードナー/佐田千織
こちらも意外なことに、東京創元社はなんと星雲賞・海外短編部門初受賞。どうしても《SFマガジン》収録の短編が軸になってしまうんでしょうけど、非常に驚きました。
海外長編部門(小説)『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー/小野田和子
『三体 Ⅲ 死神永生』が本命だと思っていたので驚きましたが、SF長編としての完成度を考えればオールタイムベスト級の作品なので、驚くまではいかないか。今回のSF大会内でもこの本についてのパネルが企画され、様々な論点から議論されていました。極私的には、ファーストコンタクトSFとしてのエイリアンの緻密かつユーモラスな造形と、テクノロジーとその未来を信頼して人類が一体となることを願う作者の姿勢に強い共感を覚えました。
メディア部門 ゴジラS.P<シンギュラポイント>
やはりSF大会ではこの作品を選出しなければいけません。極私的には、2021年に発表された日本SFにおいてもっともすぐれた作品がこれです。私の詳細なコメントはリンク先をご参照ください。
2021極私的回顧その27 SF(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
『絶チル』が遂に星雲賞受賞。長年の功労を考えればこれも当然の結果ですね。
アート部門 加藤直之
発売前増刷がかかり、一時、あらゆるネット書店で在庫切れになっていた、こちら。早川書房がSF大会に30冊持ち込んだそうですが、開会式前に売り切れてしまったそうです。
ノンフィクション部門 『学研の図鑑 スーパー戦隊』
すみませんが、未読なのでノーコメントで。
自由部門 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版シリーズの完結』
受賞理由:2007からほぼ15年にわたった新劇場版がやっと終了。単品としての映画だけではなく、長年のシリーズ完結に敬意を表したい。
『シン・エヴァ』はメディア部門ではなく自由部門での受賞となりました。作品単体に対する評価というより、長年に渡って付き合ってきた腐れ縁のような感覚になっていますね。
【センス・オブ・ジェンダー賞】
閉会式で発表されたセンス・オブ・ジェンダー賞(以下SOG賞)は以下の通りです。
ジェンダーSF研究会SOG賞 (@SOGaward) / Twitter
2020年度大賞『約束のネバーランド』白井カイウ/出水ぽすか
大賞 白井カイウ/出水ぽすか『約束のネバーランド』全20巻|ジェンダーSF研究会
極私的には2020年度は『ピュア』一択だったので、『約ネバ』の受賞は意外な感がありました。『約ネバ』自体はディストピアからユートピアに至る優れた物語であり、ジェンダーSFとして評価できる作品であるのは間違いないので、受賞そのものに違和感はありませんが。各所で語られている通り、アニメ2期のクラッシュさえなければ幸福な作品だったはずなのですが・・・。
第20回Sense of Gender賞 1次選考会レポ - otomeguの定点観測所(再開)
2021年度 SOG Hall Of Fame Award 殿堂賞 『大奥』よしながふみ
SOG Hall Of Fame Award 殿堂賞 よしながふみ『大奥』全19巻|ジェンダーSF研究会4
過去のSOG賞の選考でも幾度となく名前のあげられてきた作品です。殿堂入りということで別枠扱いになりました。功労を称える意味も込め、これは当然の受賞か。
2021年度大賞 『VRおじさんの初恋』暴力とも子
大賞 暴力とも子『VRおじさんの初恋』|ジェンダーSF研究会
極私的に強い違和感を覚えているのはこの作品の受賞です。作品そのものに文句はありません。コミック単体として見れば面白い作品ですし、ジェンダー的なズレをうまく処理している点でエッジのきいた作品です。2010年代ならこの作品をジェンダーSFとして評価しても良かったでしょう。しかし、2022年現在、この作品の内容はリアルではあるがSFではない。そして選評を読む限り、ジェンダーについて論じているのに、物語の主人公たちに向けるべき男性視点が選者たちには欠落している。ジェンダーやフェミニズムは女性だけのものではないはずです。
また、最終候補作に『同志少女よ、敵を撃て』『まぜるな危険』と優れた文芸作品があり、フェミニズム批評という点では同じ最終候補作の『立ちどまらない少女たち─〈少女マンガ〉的想像力のゆくえ─』も力を持っていただけに、『VRおじさん』にSFとして贈賞することにはやはり違和感があります。今年の夏は多忙のため1次選考に乱入できなかったので、何とも言えないのですが。