otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

第20回Sense of Gender賞 1次選考会レポ

 毎度毎度の遅ればせで恐縮ですが、今年もSFセミナーの企画で行われたSense of Gender賞の1次選考会にリモートで参加したので、レポートをあげたいと思います。今年は候補作に小説が多く、あらかた既読だったので、厚かましくもいっぱい発言してしまいました。

 【関連リンク】

第19回Sense of Gender賞2019 1次選考会レポ - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

2019SFセミナーレポートその4 第18回Sense of Gender賞 - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

2017SFセミナーレポート⑤ センス・オブ・ジェンダー賞2016第1次選考会 - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

ジェンダーSF研究会 (gender-sf.org)

ジェンダーSF研究会SOG賞さん (@SOGaward) / Twitter

センス・オブ・ジェンダー賞 - Wikipedia

Kotani Mariさん (@KotaniMari) / Twitter

小谷真理 - Wikipedia

#SOG賞2020 - Twitter検索 / Twitter

 2年ぶりにSFセミナーが行われたため、今年はオンラインの合宿企画として、SOG賞の選考会がSFセミナーに組み込まれました。仕事から帰宅して参加できる時間帯だったため、勇んで参加しました。昨年はフェミニストのおねーさま方の中で私一人だったのですが、今年は巽孝之先生はじめ何人か男性の参加があったので、割と安心しながら(??)男性視点からの意見を述べることができました。

 上のリンクからもたどることができますが、今年、第1次選考会にあがってきた作品のショートリストはこちらです。

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 それでは、選考会で有力視されていた(と極私的に感じた)作品について、いくつか触れていきます。 

  ツイッターで、候補作募集の最初の頃に本命視されて突っ走った作品で、作者自身もこの疾走に好意的な反応を示していました。極私的には、2020年のジェンダーSFではこれが大本命だと思います。例年、私は複数の候補作を推しますが、2020年度についてはこの作品一択でした。ジェンダーSFとしてはそれだけ突出していたと思います。まあ、私はこの作品はSF・ファンタジーの側ではなく文藝の側から評するべきだと今でも思っていますが。

 

 本体は男性ながらVRで美少女として振る舞う アバター同士が女性として恋に落ちるという物語。リアルな本体とVR上の人格とのジェンダー的なずれ・性差について、女性陣から強く推す声がありました。仮想人格とリアルの人格の扱いについては、星雲賞の候補作に挙がっていたこちらも議論に絡み、かなり盛り上がりました。

www.nhk-ondemand.jp

 ただ、極私的には、男性視点で見て、リアルな男性の存在があまりに虚弱に描かれている点に不満を述べました。主人公のリアルは40歳過ぎのさえない派遣社員のおじさんということになっていますが、まがりなりにも経済的に独立して一生懸命働いている一個人に対して、やはり舐めすぎ。それに、多くの男オタクは、勤め人と趣味人の顔を使い分ける甲斐性くらい持っていると思います。 

 

Lilith

Lilith

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  ジェンダー研のおねーさま方で韻文を射程にしている方は少ないので、例年、韻文の作品はあまり賞レースに絡んできません。それでもあえて今年の候補作からあげるなら、こちらだと思います。SF・ファンタジー・怪奇幻想と短歌というのは、山尾悠子さん・井辻朱美さんなど、昔から縁あるところではありますが、その最新変奏がこちらのファンタジー短歌です。山尾悠子さんが推薦文を寄せています。 

 

 毎年、候補作に名を連ねる村田沙耶香。強烈で奇天烈なアイデアを文芸短編として折り畳んで織り上げてしまう剛腕は2020年も健在でした。36歳の女性ながらいまだ魔法少女を続ける現役戦士が主人公である表題作も面白いですが、性別の排除された学校で繰り広げられる恋愛模様が素敵な「無性教室」が極私的にはおすすめです。

 

  当ブログでレビュー済みの作品なので、すみませんが、再掲で。

 冒頭『少女革命ウテナ』の引用から始まり、さまざなな女性たちがあげるおっさんたちへの叫びと怒りと抗議と諸々の声をストレートに浴びせてくる作品です。世の中が男性中心で回っていて、女性がそれに違和感を叫ぶだけでも、お叱りを受けたり、男性に理解されなかったりする。おっさんの視点から見れば気を遣って声をかけている、男性との差別の内容な扱いをしている、そんなことが威張っているとかセクハラとか受け取られて、女性たちから反発を食らっている。私を含めたおっさんたちは、まず自分たちが圧倒的な構造的優位に立っていることを理解しないといけないんですよね。

 フェミニズム視点で見れば賛同できるけど、勤め人としての視点で見るとこれを会社でやられたら窮屈だ、面倒だなと思ってしまいました。男女間に性差はあるけど上下はないはず。その当たり前の叫びを受容するアンテナを失いたくはないけど、いざ男性原理の強い会社で男性側に回って働いていると、実行するのはすごく難しい。自分の中の矛盾にざわつく感覚を覚えながら本を閉じました。

 『持続可能な魂の利用』短評 - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

 

  藤野可織は複数、候補に挙がっていましたが、極私的にはこちらを推したい。これもレビュー済みなので、再掲します。

名探偵の周りで不条理に殺人が重ねられるというご都合主義をパロディ化した世界における、ホームズとワトソンを想起させる女性二人のバディものです。最初はメタミステリと見せかけて、人が死にすぎて途中からディストピアものに変容する超展開。それでも揺るがぬ二人の友情とすがすがしさ。これらのカオスを藤野可織の高い筆力が見事にさばいています。

 2020極私的回顧その12 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

 

 極私的にはこの作品が2020年の国内SF1位なので、何か賞を取ってほしいとも思います。小谷真理さんの推薦なので、うまく生き残ってくれれば・・・。

百合SF短編の長編化ですが、真芯でとらえたリーダビリティの高い軽快な冒険SFです。社会的に圧迫される世界を二人の協力でぶっちぎっていく姿は非常に爽快。2020年、後述しますが極私的には不振だった日本SFの中で最もスカッと読めたエンタテイメントであった、この作品を1位に推します。

 2020極私的回顧その27 SF(国内) - otomeguの定点観測所(再開) (hateblo.jp)

 

 と、だいたいこんなところでしょうか。あくまで私見なので、ジェンダー研のおねーさま方の意思次第でまだまだ動くかもしれませんが。この後、このリストをもとに正式な絞り込みが行われ、昨年同様、12月に発表になるそうです。表彰式は来年のSF大会とのこと。まずは続報を待ちたいと思います。