otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・社会科・国語表現・サイエンス・スポーツ観戦・性文化・料理・お酒 【一部、性的に過激で頭のおかしな記事があります】

2017年極私的回顧その1 ライトノベル(文庫)

 それでは、ようやく準備が整いましたので、当ブログのメインコンテンツ(??)、本年度の極私的回顧の文芸・文化などの部を開始いたします。いつも通りかなりの長丁場になりますが、飽かずお付き合いいただければ幸いです。昨年から『このラノ』が文庫と単行本・ノベルズの2つの部門に分かれたのに伴い、ライトノベルの回顧も文庫と単行本部門に分けました。今年もその区分けを踏襲します。なお、いつもの通り、テキスト作成に際して『このラノ』およびamazonはじめ各種レビューを参照しております。

 【マイベスト5】

otomegu06.hateblo.jp 

このライトノベルがすごい! 2018

このライトノベルがすごい! 2018

 

  まずマイベスト5から。

 

1、テスタメントシュピーゲル 

  長い休眠期間があったためか、ラノベ界隈ではほとんど話題にならず(??)、『このラノ』のランキングにも入りませんでしたが、極私的には問答無用の1位です。けれん味たっぷりながら精密に計量されたスタイリッシュな文体、重厚な描写、緻密なプロット、膨大な設定、ハードでクールなストーリー、きちんと成立している美少女キャラと定型文法・・・冲方丁ライトノベル作家として全精力を注ぎ込んだ神的作品であり、ライトノベルの頂点の1つです。このシリーズを追ってきた読者は、作品とともに成長し、人生を過ごしてきたことを幸福に思っていることでしょう。未読なら四の五の言わずにまず読め。

 

2、<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム- 

<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム- 1.可能性の始まり (HJ文庫)

-インフィニット・デンドログラム- 1.可能性の始まり (HJ文庫)

 
<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  5.可能性を繋ぐ者達 (HJ文庫)

-インフィニット・デンドログラム- 5.可能性を繋ぐ者達 (HJ文庫)

 
<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  2.不死の獣たち (HJ文庫)

-インフィニット・デンドログラム- 2.不死の獣たち (HJ文庫)

 
<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム- 3.超級激突 (HJ文庫)

-インフィニット・デンドログラム- 3.超級激突 (HJ文庫)

 

  2017年登場(正確には2016年末ですが)の新人の作品では、極私的にはこれが一番だったと思います。VRMMOが題材ですから当然《SAO》の影響下にあり、直球のテンプレートで塗り固められた作品です。しかし、作中リアリズムの追求やキャラクターの掘り下げ、骨太なストーリーや緻密なプロット・伏線の構成などによって、記号的なテンプレートでもここまで面白くできるという好例です。

 

3、ワールドエネミー 

  これまたテンプレートな記号的ファンタジー。中二病的な異能バトルのみであればただの駄作に終わる処ですが、緻密なキャラクター設定や日常描写によって作品世界が堅固に支えられています。バトルに込められた熱量も高く、良質のエンタテイメントとして一気に読ませる力を持った作品です。

 

4、魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 

 ここ数年、ライトノベルの戦記ファンタジーとしては極私的に最も楽しめた作品でした。できれば戦姫全員との絡みを描いてほしいところでしたし、最後は強引に物語をたたんでしまいましたが、ライトノベル史上に残る盛大なハーレムエンドを演出しつつ、失速せずに最後まで駆け抜けてくれたからよしとしましょう。

 

 5、かりゆしブルー・ブルー 空と神様の八月 

  丁寧に描写された沖縄の風土を背景に愛らしい(??)怪異たちが遊ぶ琉球ファンタジーであり、清冽でピュアなボーイ・ミーツ・ガールです。ひと夏のさわやかさと甘酸っぱさを振りまきながら、最後にほろりとさせる構成はさすがカミツキレイニーですね。ミスリードを意図したミステリとしては構造にやや難がありますし、料理の描写はもう一工夫ほしかったところですが、作品の面白さを損ねるものではありません。

 

【とりあえず2017年総括】 

 まず、2017年のトピックとしては、久しぶりのLNF(ライトノベル・フェススティバル)の開催が挙げられるでしょう。残念ながら当日は仕事と重なっていて顔を出せなかったんですが、ゼロ年代には毎回観に行っていたイベントです。勝木さんとも大分ご無沙汰していて恐縮ですが、またあの熱気に触れてみたいなあ。

eventon.jp

lnf.cocolog-nifty.com

 ここ何年かライトノベルの総括で同じことを書いていますが、今年も同じことを書きます。WEB小説は今年も活況で、今年も新レーベルや新小説投稿サイトが複数登場しましたし、コミカライズやアニメ化も引き続き連発されました。WEBを中心に市場が緩やかに拡大し、ライト文芸を先頭に他ジャンルとの融解がさらに進み、読者の年齢層も広がり続けています。そして、ジャンルの領域が拡がるとともにジャンル内ジャンルが細分化され、横断的なジャンル把握はますます困難になっています。このカオスをどうやって俯瞰したらいいのか、頭を痛めるばかりです。また、今年は旧来の文庫レーベルや新人賞がここ数年の不振を脱し、佳作を一定数送り込んでいた印象です。今やWEB小説が新人の最大の登竜門であるとはいえ、旧来のレーベルが持つ熱量もまだまだ捨てたものではありません。
 相変わらず刊行点数が多く、読んでも読んでもきりがない状況です。活字中毒者にとってはこの上なくうれしい状況なのですが、今年もまたまた未読・未チェックの山が残ってしまいました。私はもちろん、今や『このラノ』さえジャンル全体を俯瞰できていません。結局、最早定番のガイドというものは存在しないので、読者が各自のアンテナを働かせて追いながら、必死に読書量を確保していくしかないということですね。

 SFならばハードSF、ミステリならば本格ミステリというように、通常、ジャンル小説にはジャンルの核に定型となる中心的なサブジャンルがあります。しかし、ライトノベルはキャラクター小説としての文法と文体は有していますが、他のジャンル小説とは異なり、定型となる核を持っていない特殊な文芸ジャンルです。ライトノベルはいわばインターフェイス(界面)です。一定の文法と文体を一応の共通項としながらも、ライトノベルはSF・ファンタジー・ミステリ・ホラー・歴史時代・恋愛・経済・文藝・ノベライズ・ジュヴナイル・ポルノなど様々なジャンル小説に接続し・蚕食し・取り込んでいく、横断的な機能を有しています。2010年代にライト文芸やWEB小説が加わって、接続領域がさらに拡大して混沌の度合いが増し、現在も蚕食と混沌の圏域は拡がり続けています。ライトノベルというジャンル運動体の比熱はまだまだ高いです。来年も本読みを悩ませるほどの質量が供給されることを期待しましょう。