2016SFセミナーレポートその4 本会「會川昇インタビュー『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』~ヒーロー・伝奇・SF」
SFセミナーレポートの第4弾は、本会企画の「會川昇インタビュー『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』~ヒーロー・伝奇・SF」です。インタビュアーは日下三蔵さん、出演者が會川昇さんでした。
『コンクリート・レボルティオ』はこの4月から第2期が始まったアニメで、このブログにお越しの方ならほとんどの方がご存知かと思います。アニメや特撮のヒーローやモンスターがすべて共存する世界を作るというコンセプトで構築されていて、ウルトラマン、仮面ライダー、魔女っ娘、妖怪、怪獣など、ありとあらゆる異能の存在たちがばらかまれたごった煮の世界が魅力的なアニメです。超常的な存在をあれだけ出しているのに物語世界が崩壊していないことがすごい。
『コンレボ』については20年来、構想があったそうですが、なかなか実現せず、あきらめかけたこともあったそうです。近年になってようやく企画実現のめどが立ち、異能者たちの世界を構築できたそうです。アメリカではマーベル・コミックのヒーローがクロスオーバーする世界は昔からありますし、
こんなクロスオーバーの小説もありましたが、
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日本では今までヒーローやモンスターがクロスオーバーする作品というのはほとんどなかったと思います。『コンレボ』が成功すれば、SF史・アニメ史に残るメルクマールになることは間違いないでしょう。
『コンレボ』が昭和40年代を舞台としているのは、今までこの時代を描いた作品がほとんどなく、空白地帯となっていたからだそうです。昭和40年代といえば学生運動の華やかなりしころです。クリエイターの中にはこの時代を経験した人も多いため、昭和40年代を描くことは一種のタブーになっていたそうです。嫌な記憶を穿り返されるということでしょう。また、會川さんは学生運動よりやや下の世代だそうですが、学生運動を経験していない人間にこの時代が描けるのか、という妙なプレッシャーも上の世代からあったそうです。しかし、エンタテイメントで描く題材にタブーがあってはいけないという信念から、昭和40年代を描く決断をなさったそうです。
ちなみに、SFセミナーの企画の前に會川さんが上の世代の人たちと飲んだ時、「俺はあの作品を〇話で切った」なんて話をいまだ得意げにしていたそうです。現在、WEB上で我々が「あのアニメを〇話で切る」なんてやりとりを頻繁にしていますが、今も昔もオタクのやることは大して変わらないということですね。
【會川昇の来歴】
パネルでは會川さんの来歴についても語られてい記憶にました。残っている範囲でまとめていきます。會川さんは早稲田中学・高校の出身ですが、中1のころからすでに各地の大学などに出入りしていたそうです。当時はまだビデオが登場する前で、放送の終わったアニメや特撮を観るためには、大学のサークルなどが開催する上映会に行くしかなかったそうです。『ぴあ』には上映会のスケジュールを掲載する欄があり、アニメ会社はフィルムを貸し出すことも商売にしていたそうです。今とはだいぶ状況が違いますね。
そして、上映会などで知り合った人脈を介して、高校時代に同人活動を行うとともに、アニメや特撮のライターとして活動を始めたそうです。かなり早熟ですねえ。当時の特撮のライターは、雑誌『宇宙船』に連載を持つのが一つの到達目標だったそうですが、會川さんは高校時代にこれを達成してしまったそうです。そのため、ライターとしての目標がなくなったこともあって、アニメの脚本を書きたいと志し、高校時代に脚本家としてデビューしました。早熟で才能があったとはいっても、高校生に脚本を書かせるのですから、当時の現場はだいぶおおらかだったんですねえ。
高校卒業後は大学に進まず、執筆専業の道に入ったそうです。早稲田高校なら早稲田大学への推薦枠があるので100%進学できるはずですが、随分と思い切ったものだと思います。当時、同学年で大学に進学しなかったのは會川さんを含めて2人だけだったそうです。1980年代後半はOVAがブームだった頃で、會川さんは多くのOVA脚本を執筆しました。当時の代表作を挙げるのはなかなか難しそうですが、とりあえず個人的な好みとしてこれを挙げておきます。
1990年代になると、OVAのブームが終わって、テレビのアニメ・特撮の仕事が多くなっていったそうです。1990年代の代表作というとやっぱりこれを挙げる人が多いと思いますが、
會川さんが思い入れのある企画として語っていたのはこちらでした。
『ネオランガ』とは懐かしいですね。1998・1999年にWOWOWで放送されたアニメで、当時はノンスクランブル枠(無料枠)で『星界の紋章』『ブレンパワード』『カウボーイビバップ』なども放映されていて、WOWOWが活発にアニメを作っている時期でした。確か、CAPRICON 1で『星界の紋章』のアニメ化企画をやっていて、WOWOWのプロデューサーが来ていたような記憶があります。。
当時は『エヴァンゲリオン』のブーム後で、とりあえずアニメを企画すれば当たるんじゃないかという雰囲気があったそうです。そのため、アニメ企画がかなりすんなり通る時期で、自分のやりたい企画ができるのはこれが最後かもしれないと思い立って、メタ的な物語構造で伝奇・SF・怪獣・政治・軍事など會川さんの好きな要素をどかどかとぶち込んで作ったのが「ネオランガ」だそうです。
そういえば、この時期にはテーマ性に走りすぎてアンバランスになったアニメがいくつかあった気がします。テレビ版の『エヴァ』自体、プロとしての仕事を完遂できなかった失敗作ですが。エンタテイメントのくせに格好をつけて哲学的・根本問題的な問いをつきつめようとして、あるいは抽象的な要素をぶち込みすぎて、作品として消化不良を起こしたアニメがいくつかありました。
この作品については會川さんも評価なさっていましたが、
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これは失敗例だと思います。
後にここに結実し、『ブレンパワード』が壮大な実験作であったことが明らかになりましたが。
【ノベライズ】
『コンレボ』のノベライズが早川書房から刊行されていますが、
日下三蔵さんは年間ベスト級と評されていました。會川さんは小説家としての力量についてかなり謙虚な発言をなさっていましたが、SF・伝奇・ミステリとして一級の作品です。また、ノベライズとしては最高級の作品です。前「定点観測所」の「極私的回顧」では、この作品を国内SFのベスト5に入れるかいれないか、最後まで迷いました。會川さんはノベライズにおいて、映像と同じ表現を極力使わずにオリジナリティ・作家性を出そうとするそうです。半ばオフレコでノベライズを大量生産する手法というのも紹介されていましたが、會川さんはその手法に手を染めることはできなかったそうです。粗製乱造の舞台裏が少し垣間見えて面白かったです。
【まとめ】
残念ながら1時間の尺しかなかったので、本会の話は中途半端な形で終わってしまいました。濃厚で面白い企画だったので、是非、続きを聞きたかったところです。多分、合宿企画で盛り上がっていたことと思いますが、同じ時間に翻訳部屋に出ていたので、お話を聞けませんでした。どこかでレポートを探すしかないかなー。
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