otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2018極私的回顧その20 ファンタジー(海外)

 極私的回顧第20弾はファンタジーです。ジャンルSFに関連する作品のうち私がファンタジーとみなしたもの、および児童文学のファンタジーの中で私がアダルト・ファンタジーとみなした作品についてまとめています。また、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。

 

otomegu06.hateblo.jp

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SFが読みたい!2019年版

SFが読みたい!2019年版

 

 

【マイベスト5】

1、竜のグリオールに絵を描いた男 

竜のグリオールに絵を描いた男 (竹書房文庫)

竜のグリオールに絵を描いた男 (竹書房文庫)

 

  21世紀にルーシャス・シェパードが刊行されたことが事件です。過去、シェパードのマジック・リアリズム的なファンタジーに酔いしれた記憶の補正もかかり、問答無用の1位となりました。竜という異物が存在する異世界の迫真のリアリティを生む緻密な描写が素晴らしいです。ドラゴンが登場する小説はたくさん読んできましたが、その中でも屹立した存在感を放つ1冊だといえるでしょう。

 

2、図書館島 

図書館島 (海外文学セレクション)

図書館島 (海外文学セレクション)

 

  デビュー長編とは思えない完成度を有する、言葉そのものをテーマとしたファンタジーです。〈文字〉対〈声〉の信仰者たちの言語を巡る根本問題的な戦い文字優勢で進みます。文字を知って文字を読むことの喜びに満ち溢れる主人公の姿は、活字中毒者全ての心情を代弁したものでしょう。そして、物語後半で〈書く〉ことに没頭する主人公の姿は、創作を志す者全ての心情の代弁でしょう。本を愛する人ならぜひ読んでほしい作品です。

 

3、タイタン 

 もちろん新刊ではありませんが、〈ファイティング・ファンタジー〉シリーズ、タイタンの世界は私が子供のころに冒険者として駆けずり回った世界でした。むせ返るような泥臭い世界観、すぐにゲームオーバーになるシビアさ、ストーンブリッジのドワーフやヤズトロモなどおなじみの面々、人を食った謎かけ盗賊など、全てが懐かしく愛しく思えます。

 

4、風がはこんだ物語 

風がはこんだ物語

風がはこんだ物語

 

  難民が乗ったボートの上で奏でられ・紡がれるのは、『スーホの白い馬』の物語です。この物語が縦糸となって、難民たちが語る過去の素晴らしい思い出が横糸として絡み、哀しい物語が紡がれます。いつ終わるとも知れないボートの旅。幾重もの不安が交錯しながらも、生への希望が失われないところにきちんと救いがあります。幻想的な絵も話の雰囲気をよく演出しています。

 

5、不思議の国の少女たち

不思議の国の少女たち (創元推理文庫)

不思議の国の少女たち (創元推理文庫)

 
トランクの中に行った双子 (創元推理文庫)

トランクの中に行った双子 (創元推理文庫)

 

  異世界から帰還した少年少女のその後を描いた、今までありそうでなかったタイプのファンタジーです。異世界で価値観が変容し、両親のいる現実世界をリアルと感じられなくなってしまったことの苦悩。異世界に還ることを望みながらも果たされず、強くなっていく切望。そんな少年少女の心の闇を描いたダーク・ファンタジーです。

 

【2018年とりあえず総括】

 アダルト・ファンタジーでも児童文学のファンタジーでも、ここ数年続いていた骨太なコア・ファンタジーがしっかり出版される流れが一服して、2018年はどちらかといえば小粒な年だったように思います。エブリデイマジックにせよハイ・ファンタジーにせよ、コア・ファンタジー異世界に重厚なリアリティを持たせてナンボです。しかし、現代作品で屹立した作品は『グリオール』『図書館島』くらいで、クラシックやネオ・クラシックの掘り起こしもあまりなく、翻訳のジャンル・ファンタジー全体としては停滞した1年でした。 

 

  ネオ・クラシックの掘り起こしという点では、極私的には〈ダーコーヴァ〉の復刊を望みたいところです。SF的背景を有したフェミニズム・ファンタジーであり、未訳のものも含めて物語の強度は現在でも十分に通用すると思います。マリオン・ジマー・ブラッドリーがこのまま絶版で埋もれていくのはもったいないので、再評価の機会が与えられないものでしょうか。

マリオン・ジマー・ブラッドリー - Wikipedia 

惑星救出計画 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

惑星救出計画 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
キルガードの狼〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

キルガードの狼〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
キルガードの狼〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

キルガードの狼〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
ダーコーヴァ不時着 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記 (690‐5))

ダーコーヴァ不時着 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記 (690‐5))

 
ストームクイーン〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

ストームクイーン〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
ストームクイーン〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

ストームクイーン〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
ホークミストレス〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

ホークミストレス〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
ヘラーズの冬 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

ヘラーズの冬 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
炎の神シャーラ (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

炎の神シャーラ (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
ハスターの後継者〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

ハスターの後継者〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
時空の扉を抜けて (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記・外伝)

時空の扉を抜けて (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記・外伝)

 
はるかなる地球帝国 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

はるかなる地球帝国 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
ドライ・タウンの虜囚 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

ドライ・タウンの虜囚 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
ホークミストレス〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

ホークミストレス〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
禁断の塔〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

禁断の塔〈下〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
ナラベドラの鷹 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記・外伝)

ナラベドラの鷹 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記・外伝)

 
宿命の赤き太陽 (創元推理文庫―ターコーヴァ年代記)

宿命の赤き太陽 (創元推理文庫―ターコーヴァ年代記)

 
禁断の塔〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

禁断の塔〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
オルドーンの剣 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

オルドーンの剣 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
ハスターの後継者〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

ハスターの後継者〈上〉 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
カリスタの石 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

カリスタの石 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

 
惑星壊滅サービス (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)

惑星壊滅サービス (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記)