『サール川の畔にて』短評
今年の4月、スペイン・ロマン主義文学の最高傑作とされる、ロサリア・デ・カストロの最後の作品『サール川の畔にて』が刊行されました。私はスペイン文学については門外漢なので、あくまで日本の現代詩や文学を評する視点から見た感想となります。
暗く強い詩想をぶつけてくる作品です。ロマン主義とは、古典主義において封じられていた人間の内的感情を作品に炸裂させる文学・芸術運動であるとするなら、作品には作者の人生そのものが投影されます。この作品にもロサリアの人生が強く照射されています。ロサリアは子供の死、自分の重い病、修道院からのいわれなき罵倒など、様々な困難を経ながらこの連作を紡いだそうです。そのため、全体に厭世感に満ち、人生の陰鬱と絶望を直球で読者に投げかける言語の連鎖は、読者のもろい琴線を破壊しかねない威力/魅力にあふれています。私はスペイン語が読めないので、原文との比較はできませんが、訳詩で選択された一語一語はシンプルながら力強く、殺伐とした叙情を読者に刻み込みます。しかし、失意にあふれる一方で、母として子を想い、また自らも必死に人生を切り開こうとする、強い生への渇望も見られます。陰鬱な風景の中にところどころ差し込むかすかな光が、この連作にわずかながらも救済をもたらしているといえるでしょう。
【参考サイト】
「スペイン幻想小説傑作集」から定義するロマン主義|グローバルな女になる!セルマ(Selma)のブログ