otomeguの定点観測所(再開)

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ナイトランド・クォータリーVol.30 暗黒のメルヘン―闇が語るもの 感想

 今回は、今月発売された『ナイトランド・クォータリーvol.30 暗黒のメルヘン〜闇が語るもの』の感想となります。

 今回も読みごたえのある短編・エッセーが多く、満足のいく読書体験となりました。SF者&ファンタジーファン&怪奇幻想の徒としては、トマス・バーネット・スワン、マイケル・ムアコックトマス・M・ディッシュと名前が並んだ時点で問答無用で買いですね。

 この号で読むべき短編はやはり何といってもトマス・バーネット・スワン「ドライアドの棲む樹」でしょう。この短編も、いかにもスワンらしく精緻に構築されており、現実のヨーロッパと地続きでありながらも妖精が確かに息づいているコア・ファンタジーです。人ではないものの呼吸を強く感じさせる訳文も優れています。スワンはかつて『薔薇の荘園』『ミノタウロスの森』『幻獣の森』で知られながら、今や邦訳がほとんどなされていない作家。こういう作家を引っ張り出してくるのも岡和田晃の視座の鋭さ・深さだといえるでしょう。

 早川書房及び《SFマガジン》以外のスワンの邦訳については、岡和田さんがコラムで紹介されていた「忍びよる樹」/「ユニコーンの谷」の他では、例えば、後に『薔薇の荘園』に収録された1963年のヒューゴー賞候補作“Where Is the Bird of Fire?” が、「火の鳥はどこに」の邦題・羽塚昴(風見潤)訳で、1976年の『別冊・奇想天外 No.1 ヒューゴー賞SF大全集』に収録されています。「火の鳥はどこに」はローマの建設者ロムルス、レムス兄弟の物語を牧羊神の末裔が語る作品で、スワンらしい神話の様式美にあふれた傑作短編です。

 『奇想天外』なので古書では割と入手しやすいですね。自宅のどこかにはあるはずなのですが、家探し中です・・・。

 表紙のデザインが・・・(-_-;)

1963 Hugo Awards | The Hugo Awards 

www.goodreads.com(のちの長編化)未読です。

 

【2022/09/18追記】

 『別冊奇想天外』見つかりました! スキャン画像を貼っときます。