2017年極私的回顧その10 国内文藝
海外文学に続いては、国内文藝についてのまとめです。いつものお断りですが、テキスト作成の際にamazonほか各種レビューを参照しています。
【マイベスト5】
1、カストロの尻
日本の文藝に実験や冒険や前衛が枯渇する中、金井美恵子の世界が健在だったのが何と嬉しかったことか。独特の長尺の文体、ねっとりと甘い濃密な描写。各短編の素材はてんでばらばらで、予備知識がなかったり感度が鈍かったりする読者を置き去りにする傲慢さに溢れていますが、それが金井美恵子を味わう愉楽。古希を超えてなお疾駆し続けるくそばばあに2017年度の1位を捧げます。
2、R帝国
ディストピア小説として、宗教対立や国際紛争さえ権力の維持に利用する、現在の政治システムを風刺した作品です。権力に抗する戦いには絶望的なまでに勝ち目が見えず、権力に擦り寄る言説に押し流されて人心が麻痺し、エゴイズムが肥大化していきます。それらの様が現実とよく重なっていて、汚らしくいやらしいです。ただし、これまでの中村作品に見られた闇や深淵や光や救済がぼやけ、風刺が前面に出てしまっているので、読み手によって評価が分かれるかもしれません。
3、千の扉
一見すると、一昔前の団地を舞台にした、中年夫婦とそれを取り巻く人々と土地の記憶とが交錯する群像劇です。しかし、土地の記憶の中に軍事施設跡や戦後の混乱などを描き、政治性を挿入しているのがこれまでの柴崎作品との差異です。作家としての成熟が見られる一方で、『ビリジアン』に析出していた過剰なまでの感性が失われつつあるのはもったいない気もしますが・・・。
4、BUTTER
木島佳苗の「首都圏連続不審死事件」をモチーフにした作品であり、本来はミステリの枠内で評するべき作品ですが、ミステリとして評価するとランキングからはじき出されてしまうので、こっちに入れました。作品後半で女性のエゴや渇望に対する掘り下げが疾走(迷走??)し、描写も文体も表題のごとく濃くなっていくので、読み手がそのしつこさを嫌うと駄作扱いになると思います。いや、最大の問題は、日本の他の文藝作品が社会や人間の暗部・深部に対する踏み込みが甘く、この作品をここに置かざるを得ないことなんですが。
5、最愛の子ども
思春期の不定形なセクシャリティについて描いた作品です。少女たちの作る疑似家族を巡る騙り=語りは不確かな作り物のレベルにとどまっており、踏み込みが浅いです。作者が腐心=苦心して、少女たちの甘い憧れの圏域を保ちつつ女性性という魂の葛藤を描こうとしたことは分かるんですが。佳作であり収穫作ではありますが、『ナチュラル・ウーマン』のような鋭利さ・瑞々しさはなくなっています。 作家として成熟することと丸くなることはイコールではないはずなんですが・・・。
ぶっちゃけましょう。百合の咲き方が中途半端です。もっとディープで戯けたセクシャリティに走れ。非力で孤独でみじめ? 少女はもっとしたたかであざとくて強くて儚いものじゃないの? 箱庭はもっと危く美しく醜いものじゃないの? 中途半端な作品ばかり生産されるから、日本の文藝が面白くないんです。セクシャリティに対する踏み込みにおいては、ライトノベルやギャルゲーなどのほうがはるかに先行=潜行しています。
FLOWERS -Le volume sur hiver-(冬篇) 通常版
- 出版社/メーカー: InnocentGrey
- 発売日: 2017/09/29
- メディア: DVD-ROM
- この商品を含むブログを見る
FLOWERS -Le volume sur printemps-(春篇) 通常版
- 出版社/メーカー: InnocentGrey
- 発売日: 2015/02/27
- メディア: DVD-ROM
- この商品を含むブログを見る
FLOWERS -Le volume sur automne-(秋篇) 通常版
- 出版社/メーカー: InnocentGrey
- 発売日: 2017/09/29
- メディア: DVD-ROM
- この商品を含むブログを見る
FLOWERS -Le volume sur ete-(夏篇) 通常版
- 出版社/メーカー: InnocentGrey
- 発売日: 2017/09/29
- メディア: DVD-ROM
- この商品を含むブログを見る
【とりあえず2017年総括】
不作。鋭利な作品も批評性の高い作品もほとんどなし。2016年もこんなことを書きましたが、2017年も同じことを書きます。70歳のばばあがいちばん尖鋭的なことをやっていてどうするんですか。作家としてキャリアを重ねるとどいつもこいつも丸くなってキレを失っていくのがどうにも腹立たしい。反知性的な現実・言説を痛烈に批評し、エッジでぶん殴るような作家は出てこないものでしょうか。翻訳の文学の多様さと襞の深さに比べて、日本の文藝の枯渇ぶりには本当に腹が立ちます。こんな中途半端なことをやっているからジャンル小説に勝てないんだよ。
生ぬるいおばちゃん語りを芥川賞に選んでばか騒ぎしているようでは、駄目ですね。
受賞作を批判しているわけではないので勘違いのなきようお願いします。