ドゥーガル・ディクソンの生物群② フューチャー・イズ・ワイルド
それでは、ドゥーガル・ディクソン『フューチャー・イズ・ワイルド』についてのテキストに参ります。
- 作者: ドゥーガル・ディクソン,ジョン・アダムス,松井孝典,土屋晶子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2004/01/08
- メディア: 単行本
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フューチャー・イズ・ワイルド 〜 驚異の進化を遂げた2億年後の未来性物たち 〜
ディクソンの架空生物ものの中では最も話題になった本だと思います。彼1人ではなく多くの生物学者が関わっています。一見アクロバティックな生物がぞろぞろいますが、科学考証は非常にしっかりしているという印象です。また、生物たちのユニークさ、進化の道筋を辿るストーリーの面白さ、現生生物と比較してみる楽しさ、そして鮮やかなイラストと図解など、いずれも高いレベルで構成されていて、非常に魅力的な本です。また、記述が分かりやすく、図解本やコミック版、DVDなどもありますので、子供でもすんなりと世界に入ることができます。
フューチャー・イズ・ワイルド完全図解ーーThe WILD WORLD of the FUTURE
- 作者: クレアーパイ,疋田努,土屋晶子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2005/01/29
- メディア: 単行本
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フューチャー・イズ・ワイルド コミック版―驚異の進化を遂げた2億年後の生命世界
- 作者: ドゥーガルディクソン,ジョンアダムス,小川隆章,Dougal Dixon,John Adams
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2007/04
- メディア: 単行本
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以前、実際に子供たちに紹介したら、かなり好評でした。普通の科学解説本だと理科嫌いの子は嫌がることもありますし、理科の教科書や参考書は面白くないですし、SFの小説やコミックだとなぜか興味を示さない子もいますし。科学へ導入する読み物として適切なものはなかなかないのが実情ですが、『フューチャー・イズ・ワイルド』は子供たちを惹きつける力を持っていました。グロテスクな架空生物もいますが、女の子にも拒否反応はありませんでした。科学読み物なので親御さんも認めてくれていました。
では、『フューチャー・イズ・ワイルド』の各時代について紹介しつつ、個人的に好きな生物について触れていきます。
【500万年後の世界】
ご存知の通り、21世紀現在、地球は氷河期です。人類は氷の少ない間氷期に文明を発達させました。しかし、氷期が再び本格化すると、人類はあっさりと絶滅してごく短い繁栄の時期を終えました。
500万年後の世界もまだ氷河期は続いていて、厳しい氷期のただ中です。地球の平均気温は低下し、氷河の拡大と海退が起こっています。また、地球全体で乾燥が進んでいて、地中海は干上がって広大な塩の沙漠になっています。アマゾンの原生林は広大な草原となり、現在のパンパのような気候になっています。
この時代で個人的に気に入っているのはガネットホエールです。
現生のカツオドリが進化したものだそうですが、セイウチのように巨大化していて、先祖の面影はありません。イルカやクジラ、セイウチ、アシカなどが軒並み絶滅したため、それらのニッチを埋めています。この巨体では空を飛べませんが、水中では時速30キロで泳げるそうです。映像にはセイウチのように上陸しているものが映っていますが、恐らく外洋性の種類もいるでしょう。胃の内容物を吐き出すシーンは食事時にはやめておきましょう。
【1億年後の世界】
1億年後の世界では、活発な火山活動の影響で二酸化炭素濃度が上昇し、温室効果のため地球全体の気温が著しく上昇しています。かつての大陸の90%以上が水につかり、多くは浅瀬になっています。数少ない陸地も多くが熱帯林や湿地に覆われていて、乾燥した気候帯は高山など一部の地域のみとなっています。
大陸移動においては、オーストラリアがユーラシア大陸と衝突しました。その影響で、現在のヒマラヤ山脈をも超える10000メートル級の高山帯・グレートプラトーが形成されています。
この時代で好きな生き物はまずこれです。
『フューチャー・イズ・ワイルド』の人気生物の1つで、現生のリクガメの子孫がかつての竜脚類のように巨大化したものです。体重は120トンに達し、地球史上最大の陸上生物です。
高い気温は変温的な動物(恒温動物・変温動物という用語は使いたくないので)に活発な代謝と成長を促すため、巨大化が進みます。巨大になることで餌を確保しやすくなる、天敵が減るなどのメリットがあり、トラトンはこれらの利点をフルに生かした生物です。映像に出てくる例では、スワンパスの毒針への耐性があげられます。子供はスワンパスの毒針にやられることもありますが、大人になると他の生物の毒など痛くもかゆくもなくなります。
ただし、トラトンの呼吸システムについては疑問が残ります。かつての竜脚類は気嚢システムで呼吸機能を維持しながら巨大化しました。トラトンの先祖のリクガメには気嚢システムがありません。もし気嚢がないとしたら、どうやって呼吸機能を維持しているのかは不明です。
映像にトラトンと一緒に出てくるスワンパスは、水陸両生に進化したタコの子孫です。肺呼吸で4日間は地上で活動でき、地上で繁殖をするそうです。タコは現在でも陸上で30分は活動できるらしいので、突飛な発想ではないようです。
次に、我々哺乳類の最後の希望、ポグルを挙げておきましょう。
グレートプラトーに生息している真社会性の巨大グモ・シルバースパイダーの巣で暮らしている齧歯類の子孫で、哺乳類最後の生き残りです。地球の気温の上昇は恒温性の動物である哺乳類には不利に働き、爬虫類との生存競争に敗れてほとんど絶滅してしまいました。
ポグルは居候兼食料用家畜です。彼らはシルバースパイダーが集めてきた植物の種をくすねて、餌として暮らしています。クモはポグルを食用として飼っています。女王グモの餌などの用途で、必要に応じてポグルは狩られます。節足動物の家畜となるのが我々哺乳類の末路のようです・・・。
ちなみに、21世紀現在でも、ネズミはクモに狩られることがあります。
1億年後の世界では、そのうちに小惑星が地球に衝突して、全生物の95%が絶滅するそうです。地球史上7回目の大量絶滅に相当するものになります。
【2億年後の世界】
大絶滅の後、生き残った生物が適応放散した結果、生物相は大きく入れ替わりました。深海ザメなどを除く魚類のほとんどは海中から姿を消し、かわってプランクトンやウミウシの子孫などがその生態的地位を占めました。魚類は絶滅した鳥類にかわって空に進出し、陸上と空中で繁栄を続けています。爬虫類や両生類も姿を消し、かわって陸上生物の中心となっているのはカタツムリ、イカなど軟体動物たちです。
大陸は再び1つになって第2パンゲアが形成されました。大陸は海岸近くの森林を除いて乾燥性の気候で、大陸中央には巨大な砂漠が広がっています。
また、海水温が高いため、風速100mを超える台風がしばしば発生し、水分や風に巻き込んだ海の生物などを内陸まで運んでいます。
この時代の代表的な生物については、まずこれを挙げなければいけません。
上記で触れた空飛ぶ魚です。海に生息しているオーシャンフリッシュと、森林に生息しているフォレストフリッシュがいます。胸鰭が翼に、腹鰭が足に、浮袋が肺に進化して、魚類は完全に大気中での生活に適応しました。タラの子孫だそうですが、鱗が消滅して堅い皮膚になっていることもあって、先祖の面影はありません。
フリッシュは肉食動物の餌になることが多いようです。オーシャンフリッシュはレインボースクイドという40mで100歳の寿命(!)を持つイカの子孫に捕食されています。この巨大イカは寿命が長いので、現生のイカに比べて知能が高いようです。また、フォレストフリッシュは粘菌・変形菌の子孫であるスリザーサッカーに捕食されています。この森の捕食風景はぶっちゃけ、「アメーバが魚を食べる」ということになりますね。あな恐ろしや。
【スリザーサッカーの捕食シーンに近い動画(笑)】
続いて、『フューチャー・イズ・ワイルド』一番人気という呼び声もある、こいつです。
イカが陸生生物となり、森の中を動き回っています。メガスクイドは8トンもの重さがありますが、8本の強靭な足で体重を支えています。祖先のイカは10本足でしたが、残り2本の足は長い腕となっており、主に餌をとるのに使われています。
タコも上陸できたのですから、イカが上陸できないという道理はありません。
大変失礼しました。空気中で活動するイカはこちらです。海上を飛んでいますね。3億年後には、フリッシュを蹴散らしてイカが空の支配者になっているかもしれません。
メガスクイドと同じ陸生のイカとして、樹上で社会生活を営むスクイボンたちがいます。現生のイカも知能が高いですが、スクイボンたちはさらに知性を発達させました。彼らの社会には秩序や階級があり、原始的な言語能力も持っているようです。将来、文明を発達させる可能性もあるとされています。地球上で人類に続いて文明を打ち立てるのはイカになるようです。