外来種の駆除は不可能でありカネと時間の無駄である
さて、いきなり過激な表題から入りましたが、現在話題になっているこちらの科学ノンフィクションを読んでみました。外来種に対する私の考えが原理主義的に凝り固まっていたのかなと顧みるとともに、大いに知的興奮を覚えたエキサイティングな読書体験でした。恐らく、今年読んだこのジャンルの本では一番面白いものではないでしょうか。
外来種は本当に悪者か?: 新しい野生 THE NEW WILD
- 作者: フレッド・ピアス,藤井留美
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2016/07/14
- メディア: 単行本
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【外来種が存在するという現実に向き合う】
外来種は本当に悪者か? ―― 新しい野生 THE NEW WILD | 話題の本 | 書籍案内 | 草思社
『外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD』 - HONZ
manager's-blog : 書評『外来種は本当に悪者か?』新しい野生 THE NEW WILD
http://mainichi.jp/articles/20160807/ddm/015/070/002000c
『外来種は本当に悪者か?』 » 「環境社会学/地域社会論 琵琶湖畔発」Faculty of Sociology, Ryukoku University
第71回 『外来種は本当に悪者か?』(フレッド・ピアス) | 読みもの|特定非営利活動法人よこはま里山研究所
外来種は本当に悪者か?: 新しい野生 THE NEW WILD | バイオの杜
THE NEW WILD 外来種は本当に悪者か? 新しい野生 : USAMURA magazine
【みんなの反応】『外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD』解説 by 岸 由二 - HONZ - ねとなび
読書記録「外来種は本当に悪者か?-新しい野生THE NEW WILD-」 : SEのための心理相談室
よく売れている本ですし、かなり話題になっているので、なんぼでもリンクは貼れますが、とりあえずこれくらいにしておきましょう。著者のフレッド・ピアスは著名な科学ノンフィクションライターで、綿密な取材と確固としたデータに基づいて、難しい問題を我々素人にも分かりやすく解き明かしてくれる腕利きです。以前、こんな本もありました。これもなかなか鋭角な作品です。
ピアスの言いたいことは極めてシンプルです。乱暴ですが要約しますと、
・生態系に入り込んだ外来種の駆除は物理的に不可能である。強引に駆除を行うと予想外の環境破壊を引き起こすこともあるし、コスト的にも全く見合わない。
・外来種が侵入先の自然環境にとって有用な役割を果たすこともある。
・人類は数十万年にわたって自然に手を加えながら活動してきたので、世界中どこを探しても「手つかずの自然」など存在しない。
・生物は環境変化に応じて絶えず移動するものであり、永遠にそこにいるものと錯覚されるような「在来種」など存在しない。
・生態系は全ての種類が緻密に結びついたネットワークであるというのは幻想であり、一つの種がなくなれば全体が崩れるようなもろいシステムではない。何らかの種の絶滅が起こっても、ニッチに誰かが入り込んで何とかするだけである。
・人間は自然環境に影響を与えてきた存在であり、これからも与え続ける。
・外来種も含めた新しい生態系概念を形作り、人間と自然がうまくやっていく方法を見つけることが大切である。
と、こんなところですね。私も外来種についてはピアスのいうところの原理主義的な態度をとってきた人間なので、いろいろ固定観念を揺さぶられるところがありました。
一方で、もちろんこんなことも書いています。
・とはいえ、もちろん外来種をほいほい野に放つことを認めるものではない。
・環境に破壊的な影響を及ぼす種の場合、駆除も選択肢としてありうる。
この本を誤読すると、外来種に関わる全てが肯定されるかのような錯覚に陥りますが、ピアスの主張は人為的な環境変化を意図的に引き起こすことを認めるものではありません。上のリンクに「釣り人の自由」を掲げてピアスの主張を曲解しているバスアングラーのテキストも含めていますが、恣意的に外来種を放ち、環境・遺伝子攪乱を引き起こすことは間違いなく悪でしょう。問題は、すでにそこにいる外来種といかに現実的に向き合うかという一点です。
【流域思考】
ちなみに、この本の解説を書いた岸由二は「流域思考」という独自の視点から環境保護活動を行ってきた人物です。
「奇跡の自然」の守りかた: 三浦半島・小網代の谷から (ちくまプリマー新書)
- 作者: 岸由二,柳瀬博一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2016/05/09
- メディア: 新書
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「流域地図」の作り方: 川から地球を考える (ちくまプリマー新書)
- 作者: 岸由二
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/11/05
- メディア: 単行本
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#291 地球に暮らしなおすための地図を手に入れろ - 岸 由二さん(慶應義塾大学経済学部教授) | mammo.tv
小網代は、流域思考で自然をまもり、地球の危機も考える - ほぼ日刊イトイ新聞
TRネットの「流域思考」 | 鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)
「地球を守るために、採集狩猟の感性を取り戻せ!」 市民活動家と生態学者の顔を持つ岸由二さん
岸由二・柳瀬博一『「奇跡の自然」の守りかた』~「自然保護」とは何か - フリー哲学者ネコナガのブログ
あからさまな今西錦司礼賛は鼻につきますし、「狩猟採集の感性」なる人間観やあまりにも楽観的に過ぎる都市観にはいろいろツッコミどころがありそうです。しかし、自然保護を原理主義的に訴えてどこかの右翼または左翼と区別がつかなくなっている人たちに比べて、現実的な戦略とビジョンのもとに環境保護活動を進めてきた足跡は間違いなく素晴らしいものです。今ある現実の環境を受容し、そこから環境や生物種の保護や利用について論を展開していく点において、岸とピアスは大いにシンクロするところがあったのでしょう。
人間が手を入れながら保全してきた環境を、できるだけ生物種がいる状態を維持しながら、これからも人間が適切に手を入れながら維持していく。対症療法的にも見えますが、人間も自然の一部であり、人間活動が自然に影響を与えて環境を改変することは人間という種が存続する限り続くわけですから、現実的な思考が一番大切だという、ごくシンプルな結論に落ち着くというわけですね。
【それで、どう考えればよいのか??】
さて、この本を読んで、自分の生物観と自然観をどう転換していくべきか、正直よく分からなくなったというのが結論です。自分の原理主義的な思考は反省しつつも、でもやっぱり、外来種の侵入によって脅かされた固有種の保全に関わっている人たちの活動を否定する気にはなれません。そして、現在の日本で一定の合意が形成されている外来種問題に対するスタンスを正面から否定する気にもなれません。
次のテキストで、もう少し別の視点も紹介してみたいと思います。