2018極私的回顧その16の3 思想・評論(思弁的実在論SR・オブジェクト指向存在論OOO・新しい実在論NM関連)
それでは思想・評論の本丸に参りましょう。そういえば現代思想メインのテキストはほぼ1年ぶりですね。いかに自分の内的なエネルギーが貧弱なのかが分かります。愚にもつかない記事を書き飛ばしている場末ブログですが、飽かずお付き合いいただければ幸いです。昨年の回顧では思弁的実在論関連をマッピングしましたが、今回はそれを補足するような(??)内容になっております。なお、リンクを貼ったテキストを中心に複数のテキストを参照しながらテキストを作成しております。また、千葉雅也さんや飯盛元章さん、仲山ひふみさん他の著作や論文にやはり多くを依拠しております。
2018極私的回顧その15 ギャルゲー - otomeguの定点観測所(再開)
『Object-Oriented Feminism』(以下OOF)感想 - otomeguの定点観測所(再開)
『複数性のエコロジー』レビュー?? - otomeguの定点観測所(再開)
2017SFセミナーレポート⑥ 《ナイトランド》&岡和田晃新刊~アトリエサード関連 - otomeguの定点観測所(再開)
《ナイトランド・クォータリー》vol.5 「アリス&クロード・アスキューと思弁的実在論/岡和田晃」への反応 - otomeguの定点観測所(再開)
思弁的実在論関連サルベージ~《ナイトランド・クォータリー》vol.04 「ウィリアム・ホープ・ホジスンと思弁的実在論/岡和田晃」への反応 - otomeguの定点観測所(再開)
思弁的実在論関連サルベージ~ハーマン批判テキスト~ - otomeguの定点観測所(再開)
レトロゲームやってみた①~serial experiments lain~ - otomeguの定点観測所(再開)
【2018年の《現代思想》と《ゲンロン》もろもろ】
現代思想 2019年1月号 総特集=現代思想の総展望2019 ―ポスト・ヒューマニティーズ―
- 作者: 千葉雅也,小泉義之,ニック・ランド,カンタン・メイヤスー,岸政彦,信田さよ子,グレアム・ハーマン,入不二基義,篠原雅武,近藤和敬,仲山ひふみ,水嶋一憲,飯盛元章,ロージ・ブライドッティ,イアン・ハミルトン・グラント,ポール・ボゴシアン
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2018/12/26
- メディア: ムック
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- 作者: 東浩紀,貝澤哉,乗松亨平,畠山宗明,松下隆志,アレクサンドル・ドゥーギン,アルテミー・マグーン,ベルナール・スティグレール,石田英敬,プラープダー・ユン,黒瀬陽平,速水健朗,井出明,高木刑,大森望,福冨渉,辻田真佐憲,安天,海猫沢めろん
- 出版社/メーカー: 株式会社ゲンロン
- 発売日: 2017/09/22
- メディア: 単行本
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まず本題にいく前に、これも一応現代思想関連のトピックですので。「波状言論」「渦状言論」「ギートステイト」含め《批評空間》の頃から東さんの言説を追いかけている向きにとっては、《ゲンロン》第1期の終刊は残念であるとともに感慨深いものがありました。
http://www.hajou.org/geetstate/cm70/hb_pp2-3.pdf
ロシア現代思想についてはテキスト化できるほど詳しくないのでコメントを控えますが、特集自体に意義があったと思います。また、日本の保守論壇の歴史を整理してくださったのは、極私的に非常に参考になりました。これでゲーム特集での居直りさえなければ、読者としてすっきり終刊を享受できたのですが。すでにTRPGゲーマーではない私でも分かる事実誤認だらけでしたから、そりゃゲーム界隈の方々は怒るでしょう。《ゲンロン》側の反論が反論になっていなかったのは、下記のリンク通りなのでここでテキスト化するまでもありませんね。今も昔も良くも悪くも東浩紀はやはり東浩紀だということがよく分かりました。
岡和田晃さま。
— ゲンロン友の会@『新記号論』予約受付中! (@genroninfo) June 21, 2018
丁寧にご指摘いただきありがとうございます。
編集部にて、確認させていただきます。
「ゲンロン8 ゲームの時代」の間違いの指摘 - Flying to Wake Island 岡和田晃公式サイト(新)
東浩紀さん、そりゃないよ(北米出版に想像力や文学性はあったか? という話)。 ※20180706訂正 - LM314V21
『ゲンロン8』座談会への指摘・返答表、への反応 - Togetter
野安の電子遊戯工房 ~「ゲンロン8」を巡る事実誤認の指摘と、それに対する対応について~|野安ゆきお|note
『ゲンロン8』共同討議へのご指摘に対する返答 | ゲンロン友の会
【ゲーム文化】俺たちをなかったことにするのヤメロ【1980年代】 | 触接地雷魚信管
では、本題へ。2018年は前年に引き続きSR・OOO・NM関連で活発な動きが見られた、知的刺激に富んだ1年でした。1990年代、私が学生の頃に最新の理論あるいはネオクラシックだったポストモダンの書物がクラシックとなり(日本で受容される)現代思想の主要人物が入れ替わっていく、その動きがさらに加速した1年であったと評するべきでしょう。昨年の回顧では哲学・思想サイドにおけるフィクションの扱いがいい加減で、文芸・文学サイドからの反応が相変わらずぬるいということを書きましたが、2018年にジジェクを読んだらそれらの不満が解消されてしまいました。私もいい加減ですねえ・・・。『SFが読みたい! 2019』で巽孝之さんも触れていらっしゃったことですが、 『三体』をはじめとするポストヒューマン的なSFでは、(人間の脱自化を目論む)SRが掲げるポストヒューマン/ポストヒューマニティにおける人間=人類の像が外挿されており、その点におけるSFの先駆性が認められます。詳しくは海外SFの項目で。
絶望する勇気 ―グローバル資本主義・原理主義・ポピュリズム―
- 作者: スラヴォイ・ジジェク,中山徹,鈴木英明
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2018/07/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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まずは日本の若手研究者についてまとめていきます。
【浅沼と飯盛と仲山】
motoaki iimori (@lwrdhtw) | Twitter
https://www2.chuo-u.ac.jp/philosophy/image/76_Theses_on_OOP.pdf
仲山ひふみ Hifumi NAKAYAMA (@sensualempire) | Twitter
哲学のホラー――思弁的実在論とその周辺 - sensualempire's diary
意味がない無意味 書評|千葉 雅也(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
外から眺めていて目立つ若手はやはりこの3人かとおもいます。研究者の道をあきらめたしがない勤め人から見ると、知的言説を駆使して活躍する彼らの姿は非常に眩しいものです。
【古いですがこんなんあったな】
金利哲氏×仲山ひふみ氏 思弁的存在論を端緒にして - Togetter
金利哲氏×仲山ひふみ氏 思弁的存在論を端緒にして (2ページ目) - Togetter
金利哲氏×仲山ひふみ氏 思弁的存在論を端緒にして (3ページ目) - Togetter
金利哲氏×仲山ひふみ氏 思弁的存在論を端緒にして (4ページ目) - Togetter
かなり乱暴ですが極私的なそれぞれの印象をまとめると、昨年の回顧でも使ったマクラですが東浩紀のドゥルーズ読解・表層の否定神学・クラインの壺・誤配空間というそれぞれの極を受容しつつ(??)、
シェリングに依拠しながら反人間主義(??)・自然哲学に現代思想のコンテクストを接続したイアン・グラントと、やはりシェリングに依拠しながら徹底した人間主義をとるマルクス・ガブリエル、彼ら2人の中庸をいこうとしているという印象のある浅沼。OOOそしてグレアム・ハーマンのフォロワーとして、日常的対象を日常的対象そのものとして個体存在者として自立させ、還元的な戦略をとる認識論や関係性の哲学を離れてすべての存在者の足を地につけようとしている飯盛。
レイ・ブラシエに近いニヒリズムのにおいがする仲山。と、このように並べていけばマッピングできるでしょうか。
仲山ひふみの美術批評はカッティングエッジなので好きなんですが、残念ながら『アーギュメンツ#3』のJホラー座談会は散漫な印象でした。怪奇・幻想の徒としての視座から見ると、的確な批評言説は持っていても肝心の怪奇・幻想の摂取量が不足しているという印象でした。やはり複数ジャンルを架橋するのは難しいということでしょうか。
Book News|ブックニュース : Jホラーからフラット存在論批判まで。意欲的なインディー批評誌『アーギュメンツ#3』は感染していく。
大岩雄典さん @rovinata_ によるアーギュメンツ#3編集に対する批判と、共同編集、仲山ひふみ @sensualempire 黒嵜想 @kurosoo による応答。 - Togetter」
もし的外れでしたら申し訳ございませんm(_ _ )m
これも昨年も書きましたが、ポストモダンはその理論的到達点に比して現実的な力を持たず、新自由主義や反知性主義の台頭を許して、私のような政治に無関心な哲学的・文化的趣味人の量産に終わり、結果としてリベラル勢力の駆動因となりませんでした。それに対し、SR・OOO・NMは主体や社会や権力や世界や環境の観念を変容させつつ政治的影響力を把持し、その先にポストモダンがなしえなかった現実的達成を企図しています。新自由主義や反知性主義の根底に根付く(前/)近代主義的な迷妄を覆して近代主義を再定義し、政治と権力と欲望に揺さぶりをかけ、現実の転倒を夢想する。そして夢想を現実のものとする。これから彼らがどこまで到達できるのかは分かりませんが、哲学・思想の思索が現実を変える駆動因となる光景が見られるなら、非常に痛快なことになるでしょう。
続いて、2018年のSR・OOO・NM関連の翻訳の進行やトピックについて雑駁ですがまとめてみます。
【NM⇒マルクス・ガブリエル来日】
マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する (NHK出版新書 569)
- 作者: 丸山俊一,NHK「欲望の時代の哲学」制作班
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2018/12/11
- メディア: 新書
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2018年10月臨時増刊号 総特集◎マルクス・ガブリエル ―新しい実在論― (現代思想10月臨時増刊号)
- 作者: マルクス・ガブリエル,野村泰紀,大河内泰樹,宮崎裕助,斎藤幸平,小泉義之,浅沼光樹,清水高志
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2018/09/19
- メディア: ムック
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神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Νύξ叢書)
- 作者: マルクス・ガブリエル,スラヴォイ・ジジェク,大河内泰樹,斎藤幸平,飯泉佑介,池松辰男,岡崎佑香,岡崎龍
- 出版社/メーカー: 堀之内出版
- 発売日: 2015/11/27
- メディア: 単行本
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- 作者: 江川純一,佐々木雄大,斎藤幸平,マルクス・ガブリエル,千葉雅也,鴻池朋子,飯田賢穂,馬場真理子,桑原俊介,ミルチャ・エリアーデ,奥山史亮,溝口大助,橋本一径,藤井修平,ドミニク・ヨーニャ=プラット,小藤朋保,ダニエル・エルヴュー=レジェ,田中浩喜,鶴岡賀雄,加藤紫苑,深井智朗,鳴子博子,石川敬史,塩川伸明,酒井隆史
- 出版社/メーカー: 堀之内出版
- 発売日: 2018/09/20
- メディア: 単行本
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- 作者: マルクス・ガブリエル,浅沼光樹,阿部ふく子,池松辰男,大河内泰樹,加藤紫苑,城戸淳,桑原俊介,下田和宣,多田圭介,中川明才,中島新,山田有希子,伊澤高志,佐々木雄大,坂東洋介,宮野真生子,村田右富実,山本芳久,三重野清顕
- 出版社/メーカー: 堀之内出版
- 発売日: 2015/12/05
- メディア: 単行本
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マルクス・ガブリエル来日インタビュー 入門マルクス・ガブリエル 『なぜ世界は存在しないのか』(講談社)(聞き手・解説=浅沼光樹)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マルクス・ガブリエル来日インタビュー 入門マルクス・ガブリエル 『なぜ世界は存在しないのか』(講談社)(聞き手・解説=浅沼光樹)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マルクス・ガブリエル来日インタビュー 入門マルクス・ガブリエル 『なぜ世界は存在しないのか』(講談社)(聞き手・解説=浅沼光樹)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マルクス・ガブリエル来日インタビュー 入門マルクス・ガブリエル 『なぜ世界は存在しないのか』(講談社)(聞き手・解説=浅沼光樹)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
哲学的になりすぎないこと~マルクス・ガブリエル氏との対談を終えて(國分 功一郎) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)
哲学的になりすぎないこと~マルクス・ガブリエル氏との対談を終えて(國分 功一郎) | 現代ビジネス | 講談社(2/3)
哲学的になりすぎないこと~マルクス・ガブリエル氏との対談を終えて(國分 功一郎) | 現代ビジネス | 講談社(3/3)
哲学者が語る民主主義の「限界」 ガブリエル×國分対談:朝日新聞デジタル
なんぼでも貼れますが、こんなもんで。
2018年の思想・哲学最大のトピックは、間違いなくマルクス・ガブリエルだったと思います。『なぜ世界は存在しないのか』がベストセラーとなり、ガブリエルが来日して多くのメディアに取り上げられました。しかし、ガブリエルが哲学者ではなく知的アイコンとして扱われ、知識人としての発言は多かったものの、肝心の哲学的議論があまり深まらなかったのが残念でした。何より、私の仕事が忙しくて観に行けなかったことが残念でした・・・。
マルクス・ガブリエルの哲学に対する私の見解についてはすでに何度か書いていますが、彼が企図しているのは21世紀におけるドイツ観念論の復興であり、哲学者としては極めてオーソドックスでオールドスクールな観念論者だと思っています。ガブリエルはシェリングから出発してフレーゲの分析哲学を用いていますが、彼の主張はさらに遡ってカントまで立ち返っているような印象です。カントが認識の場が思考によって生み出されるとしたとか、逆に可能的世界の背後に到達不可能な物自体の世界が存在するとしたとかいうのは誤読であり、カントはあまねく対象に実在性=実定性を認めていました。ガブリエルが思考=志向する意味の場においてはあらゆる対象が実在性を認められますが、これはカントに近いものだと思います。この意味の場においては、唯物論者が唱える対象も、認識論者が唱える対象も、構築主義者が唱える対象も、形而上主義者が唱える対象も、全てが存在します。事物そのもののありかたが意味なのであり、それらが束になって対象になります。そして、存在するとは意味の場のうちにあることです。意味の場も存在する以上、また別の意味の場のうちにあります。その意味の場もまた存在する以上、また別の意味の場のうちにあります。結局、意味の場について思考するとトートロジー的な反復に陥り、意味の場を内包した全体としての世界は存在しないということになります。ゆえに世界は存在しないのです。
ガブリエル来日前、私はどちらかというと彼に対して批判的なスタンスだったんですが、来日後のインタビューを観たり読んだりしていくうち、まっとうな世界観・人間観を有する哲学者なのだと感じて、大きく評価が変わりました。
マルクス・ガブリエルの新しい実在論はおそらくこの状況を言っている。僕はガブリエル評価を改めようと思う。
— 千葉雅也『意味がない無意味』発売中 (@masayachiba) June 5, 2018
【SR・OOO⇒オリジナルメンバー揃い踏み】
皆さんご承知の通り、2007年4月27日、ロンドン大学ゴールドスミス校で開催されたワークショップ「思弁的実在論」。この時に発表を行ったハーマン、メイヤスー、ブラシエ、グラントがいわゆる思弁的実在論のオリジナルメンバーです。このときの模様が収録されているのがこちらです。
Collapse: Unknown Deleuze (Urbanomic / Collapse)
- 作者: Robin Mackay,Arnaud Villani,Quentin Meillassoux,Russell Haswell,Florian Hecker,Gilles Deleuze,Incognitum,John Sellars,Éric Alliez,Jean-Claude Bonne,Mehrdad Iravanian,Thomas Duzer,J.-H. Rosny the Elder,Ray Brassier,Ian Hamilton Grant,Graham Harman
- 出版社/メーカー: Urbanomic
- 発売日: 2019/01/15
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オリジナルメンバー4人のうちメイヤスーとハーマンについては、やはり皆さんご存知の通り活発に翻訳が行われてきました。
- 作者: カンタンメイヤスー,Quentin Meillassoux,千葉雅也,大橋完太郎,星野太
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 2016/01/23
- メディア: 単行本
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- 作者: カンタン・メイヤスー,千葉雅也,(序)千葉雅也,岡嶋隆佑,熊谷謙介,黒木萬代,神保夏子
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2018/06/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: グレアムハーマン,Graham Harman,岡嶋隆佑,山下智弘,鈴木優花,石井雅巳
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 2017/09/26
- メディア: 単行本
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しかし、昨年の回顧でも触れたように、ブラシエとグラントについてはこれまで翻訳がないという不遇な状況でしたが、2018年から2019年冒頭にかけてこの2人の論文の翻訳がなされ、これでようやく4つ全てのピースが埋まりました。
批評誌『アーギュメンツ#3』 2018年6月16日刊行予定 | アーギュメンツ
https://arguments-criticalities.com/wp-content/uploads/2018/06/argument-3-Foreword.pdf
アーギュメンツ#3レイ・ブラシエ「脱平準化──「フラット存在論」に抗して」の誤植ほか - 南礀中題
現代思想 2019年1月号 総特集=現代思想の総展望2019 ―ポスト・ヒューマニティーズ―
- 作者: 千葉雅也,小泉義之,ニック・ランド,カンタン・メイヤスー,岸政彦,信田さよ子,グレアム・ハーマン,入不二基義,篠原雅武,近藤和敬,仲山ひふみ,水嶋一憲,飯盛元章,ロージ・ブライドッティ,イアン・ハミルトン・グラント,ポール・ボゴシアン
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2018/12/26
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ブラシエ『ニヒル・アンバウンド』については引き続き翻訳作業が進められているそうですが、出るのはいつになるんでしょうね。日本でブラシエについての理解を進めるには、この本の翻訳が必須なので、気長に待ちたいと思います。
Nihil Unbound: Enlightenment and Extinction
- 作者: R. Brassier
- 出版社/メーカー: Palgrave Macmillan
- 発売日: 2007/11/08
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グラントもブラシエも原語の論文を全て追い切れていないので、以下、ごく不確かな私見です。
グラントは人間中心的な自然観=世界観からの脱却を試み、自然そのものを存在者とみなす自然概念の再定義を行っています。また、シェリングを出発点として独自の形而上学を模索しながら、マルクス・ガブリエルとは別の位相で21世紀における観念論の復権を目論み、最終的には彼独自の自然哲学を構築しようとしているという印象です。まだグラントの議論は過渡期にあるため、まだその着地点は見えていないというところでしょう。
Philosophies of Nature after Schelling (Transversals: New Directions in Philosophy)
- 作者: Iain Hamilton Grant
- 出版社/メーカー: Continuum
- 発売日: 2008/12/01
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着地点が見えておらず、まだ途上だという点では、ブラシエも同じでしょう。人間とは無関係な絶対的な実在が存在するという強度の実在論を基盤に、ブラシエは思弁を行う契機としてのニヒリズムを極限まで推し進めているという印象です。さらに彼は、絶滅という極致からニヒリズムをとらえ直し、メイヤスーの祖先以前性という人類種の位相を越えて、太陽や宇宙の絶滅という絶対的な無へと議論を押し進めています。ブラシエにとってはニヒリズムや哲学はあくまで絶滅の道具であり、思弁的実在論のオリジナルメンバー4人の中では彼が最も戦闘性が髙いという印象です。ニック・ランドがポスト・アポカリプスの果てに完全なる解体と消滅を見据えているのに対し、ブラシエはニヒリズムを戦術的に用いることで、ポスト・アポカリプスの果てに何らかの行為者や政治的実践の復権を見据えているような気がします。
オルタナ右翼の源流ニック・ランドと新反動主義 - Mal d’archive
Transcendental Logic and True Representings — Glass Bead
【OOO⇒ティモシー・モートンとダーク・エコロジーおよびハイパーオブジェクト】
2018年、ようやくティモシー・モートンの翻訳が出ました。
- 作者: Timothy Morton
- 出版社/メーカー: Univ Of Minnesota Press
- 発売日: 2013/10/23
- メディア: Kindle版
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『自然なきエコロジー』はSR・OOO・NM関連においてももちろん重要な著作ですが、極私的には哲学・思想界隈だけでなく、(特に自然保護や在来種の保護、外来種の駆除などに取り組む)自然科学界隈の方に広く読んでほしい著作です。
Dark Ecology: For a Logic of Future Coexistence (The Wellek Library Lectures) (English Edition)
- 作者: Timothy Morton
- 出版社/メーカー: Columbia University Press
- 発売日: 2016/04/12
- メディア: Kindle版
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絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ
- 作者: M・R・オコナー,大下英津子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2018/09/27
- メディア: 単行本
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「自然なきエコロジー」訳者あとがきのための草稿|篠原雅武(Masatake Shinohara)|note
自然なきエコロジー/ティモシー・モートン|Hiroki Tanahashi|note
外来種の問題については当ブログでも複数回テキスト化しています。
2017サイエンスアゴラレポ - otomeguの定点観測所(再開)
外来種の駆除は不可能でありカネと時間の無駄である - otomeguの定点観測所(再開)
そうはいってもやはり外来種は駆除すべきである - otomeguの定点観測所(再開)
在来種という概念など犬に食わせろ - otomeguの定点観測所(再開)
以前ブログに書いたことのまとめですが、ダーク・エコロジーに基づいて外来種問題を考えると、こんな感じになると思います。
生態系に入り込んだ外来種の駆除は物理的に不可能です。強引に駆除を行うと予想外の環境破壊を引き起こすこともありますし、コスト的にも全く見合いません。外来種が生態系を破壊するとか、大きな経済的損失をもたらすとかいう議論には、信用すべき論拠がほとんどありません。人間は学者も含めて生態系についてほとんど理解していないのですから、理解していないということを前提に議論し、行動するべきです。
「在来種」の定義はかなり曖昧なものであり、科学的な正当性は疑わしいものです。「在来種」はしばしば人間の好き嫌いやイメージによって恣意的にカテゴライズされます。また、人間は意図しようと意図しまいと他の生物の移動に手を貸してきましたし、これからも貸し続けるでしょう。そもそも生物は環境変化に応じて絶えず移動するものであり、永遠にそこにいるものと錯覚されるような「在来種」など存在しません。外来種が在来種を駆逐しているという科学的根拠はなく、侵入した外来種のほとんどは生き残れず死に絶えていきます。
外来種コントロール事例?⇒オオモンシロチョウ - otomeguの定点観測所(再開)
外来種の入り込んだ生態系はその外来種も含めて形成されます。一部の島嶼生態系を除けば、生態系は外から生物が侵入することですぐに壊れるようなデリケートなものではありません。生態系は外来種も取り込む柔軟性を持っています。生態系が全ての種類が緻密に結びついたネットワークであるというのは幻想であり、一つの種がなくなれば全体が崩れるようなもろいシステムではありません(島嶼生態系や捕食者のキーストーン種などの事例はありますが)。何らかの種の絶滅が起こっても、ニッチに誰かが入り込んで何とかするだけです。外来種を含んだ生態系は短期間では混乱に陥っているように見えても、やがて外来種を取り込んで調和します。その過程で在来種が外来種の影響で独自の進化を遂げることもあります。また、外来種が侵入先の自然環境にとって有用な役割を果たすこともあります。
外来種の入った生態系を以前の状態に戻すことは不可能であり、外来種を含んだ生態系をいかに利用するか、いかにつきあうかを現実的に考えるべきです。外来種も含めた生物多様性について考えるべきです。人類は数十万年にわたって自然に手を加えながら活動してきたので、世界中どこを探しても「手つかずの自然」など存在しません。人間は自然環境に影響を与えてきた存在であり、これからも与え続けます。人間は自然の一部であり、人間と自然は対立するものではありません。外来種も含めた新しい生態系概念・自然概念を形作り、人間と自然がうまくやっていく方法を見つけるべきです。
この問題の中核にあるものこそハイパーオブジェクトなのでしょう。ハイパーオブジェクトは時間的・空間的に極めて巨大で、非局所的に偏在し、遥か未来にまで及びます。ここで事例として挙げた外来種問題はハイパーオブジェクトの一側面に過ぎません。
ハイパーオブジェクトは無数のパーツの相関によって成り立っており、パーツが集積されればされるほどその全容が見えなくなります。具体的に触れたり感じたりはできませんが、我々は生態系の危機というハイパーオブジェクトを認識しており、現実として危機はあります。それはずっと以前から存在していました。近年、ようやく我々がそれを認識しました。
ハイパーオブジェクトは人間との関係において存在しますが、人間とは無関係に、自然の他のオブジェクトの関係においても存在します。我々は多様な関係性の中にある一つのオブジェクトに過ぎません。人間もまた生態系の一部です。自然だから人間だからと二元法的に物事を考えるのではなく、できるだけ多くの生命体に恩恵をもたらすようなありかたを考えていくべきです。そのためには、我々と自然との関係性、我々がオブジェクトであるという現実を受け入れ、他の生物との相互作用の中で現実的に最善の策をとり続けることが必要なのでしょう。