otomeguの定点観測所(再開)

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2016極私的回顧その21 ファンタジー(国内)

 極私的回顧20弾は国内のファンタジーです。海外ファンタジー同様、ジャンル・ファンタジーに属すると判断したアダルト・ファンタジーおよび児童文学のファンタジーについてまとめています。ライトノベルのファンタジーについてはライトノベルの項目をご参照ください。また、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。

 【マイベスト5】 

SFが読みたい! 2017年版

SFが読みたい! 2017年版

 

 

1、〈翼の帰る処〉 

翼の帰る処 5 ―蒼穹の果てへ― 下

翼の帰る処 5 ―蒼穹の果てへ― 下

 

  このシリーズの完結は2016年の国内ファンタジーにおける最大のトピックでしょう。人間と神とが交わる物語に真正面から挑みつつ、本格ファンタジーとして幻想世界における世界と何か? 神とは何か? 人間とは何か? などの根本問題的な問いに対して一定の解答を提示して見せました。躍動する物語とファンタジーにおける魔術的/神学的な寓意とを高いレベルで描き切った稀有な作品であり、日本のファンタジー史上に残る傑作です。遅まきながら完走を果たした作者に敬意を表するとともに、シリーズ完結に祝杯を挙げましょう。

 

2、滅びの鐘 

滅びの鐘

滅びの鐘

 

  文章そのものに幻想をまとわせて読者と神秘を架橋するファンタジー作家は、現役では乾石智子だけでしょう。魔法の品物を創造するカーランド人の生活、竪琴と歌声で幻を紡ぎ出す「魔が歌」など、日常の中に魔術があふれており、異世界の神秘がごくすんなりと読者の中に入り込んできます。そして、巨大な竪琴の音色が古の都を覆うラストは荘厳の一言。今のところ、乾石智子の作品の中でも頂点に位置する小説です。

 

3、夜行 

夜行

夜行

 

  SFでもジュヴナイルでも青春小説でもありますが、ジャンル的にはファンタジーが最もふさわしいと判断してここに入れました。触れ込み通り、『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』『きつねのはなし』の世界が交錯し、百物語的なホラー風味の物語が展開されます。パラレルな世界構成には『四畳半神話大系』による浸食も見てとれます。いつもの人を食ったようなのどかなテイストも健在で、森見登美彦の持ち味がうまく詰め込まれた佳作だといえるでしょう。 

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 

  

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

 

  

きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)

 

  

四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)

 

 

4、雨の日も神様と相撲を 

雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ)

雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ)

 

  カエルの神様が登場するファンタジーであり、相撲を題材にしたスポーツ小説であり、ボーイミーツガールであり、ミステリでもあるという、内容が盛りだくさんの作品です。カエルの生物学的特徴や相撲の技術的要素、心理的な駆け引きなどが巧みに描写された相撲部分を軸に、最後は青春小説として大団円でまとめています。ただし、ミステリとしての出来はよくないので、そこには期待しないこと。

 

5、チポロ 

チポロ

チポロ

 

  アイヌ神話をベースにしたファンタジーであり、主人公の少年・チポロのビルドゥングスロマンです。友情・成長・優しさなど児童文学に求められるテーマがしっかり収められていて、物語をアップテンポに構成する筆力も確かです。〈ソニン〉に比べるとやや小粒ですが、作者の持ち味が十分に発揮された佳作です。 

天山の巫女ソニン(1) 黄金の燕 (講談社文庫)

天山の巫女ソニン(1) 黄金の燕 (講談社文庫)

 

 

【2016年とりあえず総括】

  不作だった2015年からやや盛り返し、アダルト・ファンタジーでも、児童文学のファンタジーでも、本格ファンタジーとして芯の通った作品が刊行され、まずまずの作柄でした。特に異世界のハイ・ファンタジーに収穫の多い年だったといえるでしょう。日本で本格ファンタジーを書ける作家の人数は限られている上、寡作の人が多いですが、何とかコンスタントに執筆してもらって、日本のファンタジーの灯をともし続けてほしいものです。

 また、一時途絶えていたファンタジーの新人賞も、東京創元社が新人賞作品を刊行し、日本ファンタジーノベル大賞の募集再開のニュースが入ってきて、少し明るい見通しになってきました。ファンタジーファンとしては、強力な新人作家の登場を期待したいものです。

otomegu06.hateblo.jp

www.shinchosha.co.jp

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