『月のケーキ』短評
ファンタジーファンであれば児童文学は当然必須科目ですが、ジョーン・エイキン(エイケン)といえば、〈おおかみ年代記〉〈アラベルとモルティマー〉などで知られる児童文学作家として日本では知られています。先月、彼女の短編集が東京創元社から発売されました。
Webミステリーズ! : ジョーン・エイキン『月のケーキ』訳者あとがき(三辺律子)
エイキンといえば、〈おおかみ年代記〉を小さい頃に読んだというおぼろげな記憶しかなかったです。大人向けのホラーや詩を書いているのは知っていましたし、昔、学生の頃に英語で読んだことはあるはずですが、その記憶もほぼなし。今回、久しぶりの遭遇というか再会になりました。
佳作です。アダルト・ファンタジーとして解することもできますが、やはりベースになっているのは児童文学の文法であり、古めかしいフェアリーテール。作品の舞台は現代ですが、話のトーンはおとぎ話の教訓や説話の類であり、散りばめられたユーモアやアイロニーなどもどこか既視感が強いです。しかし、そこに漂う美しい余韻や、細やかな心情描写、あるいは世界は残酷で美しく複雑で豊かなものであることをありのままに語るエイキンのテーマ性は、普遍性を帯びて子供にも大人にも届くものだと思います。